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卵外被タンパク質ZP1の変異で、女性不妊となる仕組みを解明-名大

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2019年07月23日 AM11:45

卵外被ZP1の変異で、なぜ女性不妊となるのか

名古屋大学は7月19日、卵外被のZP1と呼ばれるタンパク質における変異が、どのようにして女性不妊の原因となり得るかを明らかにした研究結果を発表した。この研究は、同大大学院生命農学研究科の松田幹教授と西尾俊亮博士研究員(論文投稿時)と、スウェーデン王国カロリンスカ研究所のLuca JOVINE教授の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に7月12日付で掲載された。


画像はリリースより

脊椎動物の卵子は卵外被と呼ばれる特殊な細胞外マトリクスで覆われている。哺乳類では透明帯(zona pellucida:ZP)と呼ばれ、3~4種類のタンパク質(-4)で網目状のマトリクスが構築されている。近年の研究により、女性不妊とZP1遺伝子の変異との関連が示唆されていた。一方で、鳥類の受精において、精子が卵外被マトリクスを溶解しつつ貫通する際にZP1が精子プロテアーゼによる分解を受けることから、ZP1はマトリクス構築と溶解に重要な役割を持つと考えられていた。

ZP1タンパク質2分子が柔軟な架橋構造を作ることが大切

今回の研究では、まず、不妊症の女性で見つかったZP1遺伝子の変異(I390fs404X)により、ヒトZP1タンパク質は合成されるものの細胞からの分泌が損なわれること、および他のZP2-4タンパク質の合成と分泌には影響しないことを明らかにし、不妊とZP1との関連を示した。詳細な解析により、卵子の周囲を覆う健全な外被の構築にはZP1タンパク質が必須であること、すなわち、ZP1タンパク質は、ZP-N1ドメインのシステイン残基を介して2つの分子が結合し、柔軟な架橋構造を作ることで、安定な卵外被の構造を保持していることが明らかとなった。2分子が結合したZP1タンパク質は、糖鎖構造の違いなどにより3種類の異なる立体配置をとることが判明。この立体構造を精密に解析したところ、女性不妊で見つかった2種類の遺伝子変異によって生じるZP1変異タンパク質では、いずれもZP1タンパク質2分子の架橋構造を作ることができず、また、この架橋構造は、ZP1に結合する糖鎖や受精卵から放出される亜鉛イオンによって調節され得ることが示唆された。

倫理的な問題も含めてヒトの卵子を研究に用いることは難しいため、ZP1の架橋構造やその立体構造の解明は、鶏卵から分離した天然の卵外被とZP1タンパク質、さらに培養した細胞に作らせたニワトリZP1タンパク質を使って行い、その後、ニワトリZP1での実験結果がヒトZP1にも当てはまることを実証したという。今回の研究により分子間での架橋を形成するZP1の立体構造の詳細が解明されたことは、卵外被の網目構造の構築機構の全容解明に向けて大きな意味を持つと考えられる。「ZP1タンパク質は、今後、ホルモン剤ではない避妊薬の有望な標的になり得る」と、研究グループは述べている。

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