同院は、DPCの一般病床(176床)と回復期リハビリテーション病床(131床)が主体の病院で、整形外科、リウマチ科、形成外科、脳神経内科など17診療科を擁する。常勤薬剤師は13人。同院では、先行する他施設の報告を踏まえ、経済的で有効な薬物治療を推進できると判断。薬剤部、院内の医薬品安全管理委員会での審議を経て、昨年からフォーミュラリーを導入し、まずPPIで運用を開始した。
薬効群の選定に当たっては、専任の医薬品情報担当薬剤師である下田賢一郎氏が主導し、▽専門診療科がない▽汎用する▽診療ガイドラインなど信頼性の高い資料がある――ものを、優先して作成する薬効群と位置づけた。
その上で、診療ガイドラインや薬価、添付文書、インタビューフォーム、医薬品リスク管理計画(RMP)、他院での事例を参考に、推奨度や薬価、根拠となるガイドライン、特徴などを記載したフォーミュラリーを作成している。
下田氏は、「中規模病院ではフォーミュラリー委員会などの設置は人員的に難しい」と指摘。「DI担当薬剤師として1人でフォーミュラリーを作成しており、自らの意向が大きく反映されるため、客観的なガイドラインに沿って公平中立に推奨度を決定するよう心がけている」と話す。
第1弾のPPIのフォーミュラリーは、第1選択薬をランソプラゾールOD錠とし、第2選択薬をラベプラゾールナトリウム錠とした。他のPPIで効果不十分な場合の第3選択薬として、高価な先発薬のタケキャブ錠を盛り込んでいる。こうして作成したフォーミュラリーを医局会とDIニュースで周知し、電子カルテの院内医薬品集に掲示する流れとなる。
次いで睡眠薬、経口H2受容体拮抗薬、慢性便秘症薬、過活動膀胱治療薬と、これまでに5種類の薬効群でフォーミュラリーをまとめた。下田氏は、「診療科で扱うことが多い薬効群のフォーミュラリーを作成する場合は、診療科の意見も反映させることが重要」と話している。
同院のフォーミュラリーは同効薬で作成し、作用機序の異なる薬剤も併記している。この方法によって医師が薬剤選択しやすくなったという。ただ、同院では医師の処方権を考慮し、フォーミュラリーを「推奨リスト」と位置づけている。強制力を持たせていないため、医師によってフォーミュラリーの活用に差が見られることが課題である。
下田氏は「フォーミュラリーを作成しても臨床現場でどの程度反映されているかは分からず、推奨度が低い薬剤の処方を確認できていない」と述べ、「今後は医師への処方確認など運用方法の検討が必要」と課題を挙げている。
その上で、薬剤師の役割について、「薬剤部が中心となって病院経営陣に働きかけることが重要」と薬剤師がフォーミュラリー運用のカギになることを強調。今後、薬効群における処方変動や薬剤購入額の推移を調査し、その結果をエビデンスとして蓄積することが重要とした。
まだ医療機関におけるフォーミュラリーの取り組みは全国的に少なく、先進事例にとどまっているのが現状だが、下田氏は「フォーミュラリーの有用性を評価した報告でエビデンスを蓄積していかなければ、診療報酬につながらないのではないか」との見方を示す。