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日本人遺伝性前立腺がんの原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴を明らかに-理研ら

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2019年07月19日 PM12:45

2万人の日本人DNAから病的バリアントを解析

(理研)は7月17日、世界最大規模となる約2万人のDNAを解析して、日本人遺伝性前立腺がんの原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴について明らかにしたと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダー、東京大学医科学研究所の村上善則教授、栃木県立がんセンターゲノムセンターの菅野康吉ゲノムセンター長、国立がん研究センターの吉田輝彦遺伝子診療部門長らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Journal of the National Cancer Institute」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

前立腺がんは日本人男性で4番目に患者数の多いがんであり、乳がんなどと同様に、そのうち数%程度の患者は1つの病的バリアントが発症の原因になると考えられている。前立腺がんの原因遺伝子としては、乳がんの原因遺伝子としても知られるBRCA1、BRCA2を含め、8種類ほどが報告されている。前立腺患者がBRCA1やBRCA2に病的バリアントを持つ場合には、乳がんの場合と同様、PARP阻害剤などの薬が効果的であることが知られている。そのため、遺伝子検査は治療、早期発見、近親者の発症予防などにつながると期待される。

このような「ゲノム医療」を行うには、遺伝子検査結果の解釈、病的バリアント保有者の発症リスク、臨床的特徴についての大規模なデータが不可欠。研究グループは2018年に、日本人の遺伝性乳がんの病的バリアントデータベースを構築している。一方で、前立腺がんではこうしたデータが世界的に不足しており、ゲノム情報を用いた診療のガイドラインもない。そこで研究グループは、前立腺がんについて、原因遺伝子・疾患発症リスク・臨床情報の関係を大規模なサンプルで明らかにすることが、前立腺がんのゲノム医療につながると考え、研究を開始した。

、ATMが発症に関与

今回、国際共同研究グループは、前立腺がんの原因と考えられる8個の遺伝子について、バイオバンク・ジャパンにより収集された前立腺がん患者7,636人および対照群12,366人のDNAを、独自に開発したゲノム解析手法を用いて解析。その結果、1,456個のバリアントを同定し、この中の136個(9.3%)が病的バリアントであると判明した。

次に、遺伝子ごとに病的バリアントのアミノ酸の位置とその頻度を確認するために、ロリプロットを作成。その結果、多く(78.8%)の病的バリアントは7,636人の患者群の中で1人しか持っておらず、極めて頻度が低いことが判明した。一方、10人以上で共有する頻度が高い病的バリアントが、ATM遺伝子で1個、BRCA2遺伝子で2個、HOXB13遺伝子で1個見つかった。このうち、ATMとHOXB13で見つかった2個のバリアントは、これまで登録のない新しい病的バリアントだった。

また、これら136個の病的バリアントを、疾患群・対照群それぞれがどのくらいの割合で持っているかを調べた。その結果、8遺伝子全体では、疾患群の2.9%、対照群の0.8%が病的バリアントを持っており、病的バリアントを持つことで前立腺がんへのなりやすさが約3.7倍高まることが明らかになった。遺伝子ごとでは、BRCA2、HOXB13、ATMの3遺伝子が前立腺がん発症に寄与していることが判明した。これまでに、前立腺がん発症への寄与に十分な根拠があると報告されていたBRCA1は、今回の研究で明確な関連性が示されなかった。また、これまでの報告で関連性が示唆されてきたPALB2、BRIP1、NBNなどの遺伝子に存在する病的バリアントが原因で、前立腺がんを発症している患者も、ほとんどいなかった。

国内外の公的データベースに登録、ゲノム医療推進へ

次に、病的バリアント保有者がどのような臨床的特徴を持っているかを調べたところ、病的バリアント保有者は非保有者よりも前立腺がんと診断される年齢が2歳若いこと、喫煙歴や飲酒歴がある人が多いこと、また家族に乳がん、膵がん、肺がん、肝がん患者がいる割合が大きいこと、臨床症状もTNM分類、グリソンスコア、PSA(前立腺特異抗原などの項目が悪いことが明らかになった。

前立腺がんの保有者は前立腺がんの家族歴があることがよく知られていたが、今回の研究では確認されなかった。これは、海外のデータに比べて、今回解析に使用したデータでは家族に前立腺がん患者がいる割合が小さいためだと考えられるが、近年、日本でも前立腺がん患者が急激に増えていることから、近い将来、前立腺がんの家族歴も病的バリアント保有者の臨床的特徴となり得ると、研究グループは考察している。

最後に、前立腺がん診断年齢ごとに遺伝子バリアント保有者の割合を調べた。その結果、60歳未満では7.9%と高い割合で見つかり、年齢が上がるごとにその割合は少なくなったが、65歳以上では2、3%程度でほぼ変わらないことがわかった。1つの病的バリアントにより発症する遺伝性疾患は、通常は早期に発症すると考えられているが、乳がんの場合と同様に、高齢であっても一定の寄与があり、遺伝子検査をする意義があると判明した。

今後、これらのデータは国内外の公的データベースに登録、活用される予定。「今回明らかにした遺伝子・疾患発症リスク・臨床情報の大規模データは、今後、前立腺がんの患者一人ひとりに合ったゲノム医療を行う上で重要な情報となると期待できる」と、研究グループは述べている。

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