感染性や病原性が明らかにされていなかった鳥インフルエンザ
京都府立医科大学は7月16日、鳥インフルエンザウイルスが伝播する過程で、ウイルス性状を大きく変化させてヒトを含む哺乳類に対する増殖効率を高めていることを明らかした研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科感染病態学の荒井泰葉博士研究員と渡邊洋平講師らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「PLoS Pathogens」に掲載された。
画像はリリースより
1997年に中国で出現した「H9N2鳥インフルエンザウイルス」は、現在までにユーラシア・アフリカ大陸に広範に伝播しており、中央アジア、西アジア、中東域で家禽(かきん)に対してアウトブレイクを引き起こしている。過去にはH9N2鳥インフルエンザウイルスのゲノム遺伝子の一部が供給源となり、H5N1、H7N9およびH5N8鳥インフルエンザウイルスなどのヒトへの感染例と死亡例が報告される「新型鳥インフルエンザウイルス」が出現したこともあった。H9N2鳥インフルエンザウイルスの感染性や病原性は不明だったが、今後のインフルエンザ対策遂行のため、この性状解明は急務とされている。
侵入したウイルスが少量でも、感染を成立させることなどが判明
研究グループは、中国で出現した直後のH9N2鳥インフルエンザウイルスに、大陸を西へ伝播する過程で選択された4つのPB2タンパク質を人工的に導入し、各5匹のマウスに経鼻感染させた。ウイルス遺伝子の変異がウイルス性状に与える影響をin vitro(試験管内の細胞)と in vivo(生体内)において評価したところ、H9N2鳥インフルエンザウイルスは、変異を蓄積することでマウス肺と鼻での増殖効率が高く変化。さらに、呼吸器組織において感染しやすく変化することで、より重度の肺炎を引き起こすことを確認した。
この結果は、体内に入ったウイルスが少量であっても、哺乳動物内で感染を成立することを示す。さらに、中東域で現在蔓延する同ウイルスは、過去にパンデミックウイルスが出現した際に新型ウイルスが保有していた変異と類似の変異を獲得していることが判明した。
今回の研究により、同ウイルスが東アジアから中東へと大陸を西へ伝播する過程において、ヒトを含む哺乳動物に対する増殖効率を高く変化させていることが世界で初めて明らかになった。同地域で流行する同ウイルスは、鳥類に加え、哺乳動物にも感染する能力を保有しており、他のインフルエンザウイルスとゲノム遺伝子を交雑させて、新型ウイルスが出現しやすい状況にあると予想される。この成果は、将来のパンデミック出現予測や感染拡大阻止に役立つとともに、今後のインフルエンザ・パンデミック対策の計画を策定、実施する上で重要な情報となることが期待される。
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