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肝静脈波形を数値化し、新しい肝線維化診断法を開発-東大病院

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2019年07月18日 PM12:30

超音波パルスドプラ法で肝静脈血流を解析し数値化

東京大学は7月12日、肝臓の静脈を流れる血流速度の変化(肝静脈波形)を超音波パルスドプラ法で解析し数値化したものが、肝線維化の優れた指標となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院検査部の揃田陽子登録研究員、佐藤雅哉助教、矢冨裕教授、同院消化器内科の中塚拓馬助教、中川勇人特任講師、小池和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Ultrasound in medicine and biology」に同日掲載された。

慢性肝炎によって肝臓は線維化をきたし、肝硬変・肝臓がんへと進行する。したがって慢性肝疾患においては肝線維化がどの程度進行しているかを正確に診断することが重要となる。肝線維化の標準的評価法は肝生検による組織学的評価とされているが、この方法は出血リスクのため入院で行う必要があり、患者の負担が大きく制約がある。最近では肝生検に代わる非侵襲的検査法としてエラストグラフィによる肝硬度測定機器が登場したが、高額な専用機器が必要なため、本来リスクの高い慢性肝疾患患者を拾い上げるための健診施設などで普及されるには至っていない。そうした背景から、より簡便かつ正確な肝線維化評価法の登場が望まれている。

そこで研究グループは肝線維化評価の指標として「肝静脈波形」、すなわち、超音波パルスドプラ法で肝静脈血流の速度変化を測定することにより得られる波形に注目。肝静脈波形は心拍動によって生じるが、肝静脈は血管抵抗が低い(血管の壁が柔らかい)ことから肝組織の線維化の影響を受けやすく、肝線維化が進行すると肝静脈波形は3相波→2相波→単相波へと平坦化することが知られている。しかしながら肝静脈波形は簡単に測定できる反面、客観的な定量性を持たせることができないことから、肝線維化評価法として実用性に乏しい点が問題だった。そこで今回の研究では、肝静脈波形変化を数値化することで新たな肝線維化診断法の開発を試みた。


画像はリリースより

APRIスコアより高精度、脂肪沈着や炎症の影響も受けにくい

まず、変動係数(CV)を用いたた肝静脈波形の定量化を行った。肝静脈波形の平坦化とは肝静脈血流の速度の変化、つまり速度のばらつきが乏しくなることを意味する。そこで測定値のばらつきを表す統計量である CV を用いて血流速度の変化を数値化し、CV の逆数を q-HVと新たに定義して肝線維化診断精度を検討した。

2016年6月から2018年3月までに東京大学医学部附属病院消化器内科で肝生検を受けた123人の患者で肝静脈波形を測定しq-HVを算出。その結果、q-HVは組織学的な肝線維化ステージが上昇するにつれ有意に増加し、F2以上(有意な肝線維化)を診断するAUROC値は0.732、F4(肝硬変)診断のAUROC値は0.805だった。一方で肝線維化予測式として汎用されるAPRIスコアでは、AUROC値は0.572(F2以上)、0.618(F4)だった。血液データを用いた肝線維化スコアリングシステムであるFIB-4 indexとq-HVを組み合わせるとAUROC値は0.784(F2以上)、0.873(F4)まで上昇した。

さらに、、脂肪沈着がq-HVに与える影響を調べるために、肝臓の炎症が強い33症例(ALT 100 U/L 以上)で解析すると、F2以上診断のAUROC値は0.781だった。同様に中等度以上の脂肪肝26症例(組織学的に脂肪沈着が全体の33%以上)では、F2以上診断のAUROC値は0.746だった。肝臓の炎症、脂肪沈着はエラストグラフィによる肝硬度測定値に影響を及ぼすことが知られるが、q-HVによる肝線維化診断法はこれらの影響を受けにくいことがわかった。

医療現場で実装可能な新医療機器として薬事承認も視野に

肝静脈波形の測定は一般の超音波機器に搭載されるパルスドプラを用いて簡単に行えるため、今回の研究成果により、健康診断などの多くの医療現場においても肝臓の状態を評価することが可能となり、重症の肝疾患患者を正しく抽出し適切な医療を提供できるようになる可能性がある。また生体内で計測される波形変化を定量化する技術はこれまでに良いものがなかったが、今回の研究で用いた手法は肝臓だけでなく、さまざまな生体情報に応用することが可能だという。「今後は、超音波機器による静脈波形抽出の自動化など、今回の研究で構築した手法を改良し診断精度を高めるとともに、医療現場で実装可能な新医療機器として薬事承認を得ることも視野に入れている」と、研究グループは述べている。

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