病院前アドレナリン投与ありの1か月生存率は2.2%
群馬大学は7月11日、心肺停止患者に対して一般に使用される薬剤「アドレナリン」が、交通事故による外傷性心肺停止患者に対して生存率改善に有効ではなかったことを報告した。この研究は、同大大学院医学系研究科救急医学分野の青木誠助教らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
心臓が止まってしまった患者(心肺停止患者)に対する一般的な蘇生法として、心臓マッサージ(胸骨圧迫)と人工呼吸器管理、そして心臓を動かすためにアドレナリンの点滴投与が行われる。心肺停止状態が継続すると、人間の脳は約4分後には不可逆的障害を負い始めるとされており、一刻も早く心臓の動きが再開するように蘇生処置を行うことが重要であるとされている。
今回研究グループは、交通事故による心肺停止患者について病院前アドレナリン投与が有効かを検証。消防機関が管理する日本中の心肺停止症例のデータ「ウツタイン」を用いた検証の結果、病院前アドレナリンあり(758人)は、自己心拍再開率16.7%/1か月生存率2.2%だったのに対し、病院前アドレナリンなし(4,446人)は、自己心拍再開率2.8%/1か月生存率0.9%であった。結果として、外傷性心肺停止患者に対しての病院前アドレナリン投与は、一時的に止まった心臓を動かすことはできるが、最終的に生存にまでは至らないことが判明した。
積極的な病院前治療を行うことが生存率向上への鍵
外傷性心肺停止は、主にけがによる出血や、脳の損傷等が原因で心肺停止に至る。外傷性心肺停止の患者の生存を上げるためには、止まってしまった心臓を動かすだけでなく、けがにより生じた出血の制御、損傷部位に対しての治療を迅速に行わなければ救命は不可能であることが、今回の研究により確認された。過去の研究では、ドクターカーやドクターヘリ等を用いて医療者を現場に派遣し、積極的な病院前診療を行うことが、生存率改善に貢献する可能性が指摘されている。
また、主に心臓病が原因の内因性心肺停止の人に対してアドレナリン投与を行うことは、現在の日本の蘇生ガイドラインでは「弱く推奨する」とされている。内因性心肺停止に対してアドレナリン投与の有効性を検証した2018年度の最新の研究では、止まっていた心臓を動かし生存率を上げるものの、重篤な後遺症を抱えた生存を増やすのみであったと報告され、その有効性が見直されている。
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・群馬大学 プレスリリース