骨吸収抑制薬は体へのリン負荷低減にはたらくのか
大阪市立大学は7月5日、腎機能が正常な骨粗しょう症患者に骨吸収抑制薬であるデノスマブを投与した場合、骨からのリン放出を低下させることで加齢に伴う腎機能低下を防止させるだけでなく、さらに改善させる効果があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学の稲葉雅章教授らの研究グループによるもの。研究成果は、アメリカ骨ミネラル研究雑誌「JBMR」に同日付で掲載された。
画像はリリースより
骨はひびの入った古い骨を吸収して、その欠損部に新しい骨を形成して置き換える「リモデリング」により骨強度を保っている。骨粗しょう症は、女性ホルモン欠乏や身体活動性低下などの原因により、骨吸収の亢進が顕著となり骨の量が減ることで骨がもろくなり骨折を引き起こす病気。骨吸収によって骨のカルシウムのみでなく、リンも血液中に放出される。リンは食品中の添加無機リンの過剰摂取と同じく、体へのリン負荷を増加させ、生体毒として働く。
デノスマブ投与2年間で血清リン低下と腎機能改善を確認
これまでは、骨粗しょう症患者に骨吸収抑制薬を投与すると心血管障害の抑止効果があることが知られていたが、そのメカニズムについては不明だった。今回の研究では、骨吸収抑制薬投与がリン放出の低下、および腎機能の改善に効果的かどうかを検証した。その結果、骨粗しょう症に伴う骨吸収亢進によってリンが血液中に放出されることで腎臓を障害すること、また、骨吸収抑制薬による骨粗しょう症の治療によって骨からのリン放出が減少することで、腎機能の低下が抑止するのみでなく、反転することが初めて明らかになった。
研究では、73名の骨粗しょう症患者に骨吸収抑制薬であるデノスマブを2年間にわたって半年ごとに3回投与。投与後2年間で、加齢に伴う概算糸球体濾過率(eGFR)の低下に逆らって有意に改善することを、血清シスタチンC濃度に基づく、より正確なeGFRを用いて示し、+2.75±1.2 mL/min/1.73 m2、有意に上昇させることを明らかにした。さらにeGFRの上昇の程度とデノスマブ投与後半年間の血清リンの低下との間に有意な関連を認めたことから、デノスマブによる骨吸収抑制が骨からのリン放出を軽減させた結果生じる血清リン濃度低下が、腎機能を改善させるという直接的な証拠を初めて得ることに成功した。
今回の検討から、骨吸収亢進を示す骨粗しょう症患者に対する骨吸収抑制薬による介入は、既報での心血管保護効果のみならず、腎保護の面からも臨床的意義があると考えられた。「女性は閉経前に比べ閉経後は高血圧症罹患率や心血管イベントの発生率の上昇が認められる。このひとつの機序として、閉経に伴う骨吸収亢進、およびそれに伴う骨からのリン放出の関与が示されたことで、閉経後骨粗しょう症に対して早期から骨吸収抑制薬で介入することにより、閉経後女性における骨粗しょう症のみでなく、腎臓や血管系に関する健康障害全般の改善が期待できる根拠になった」と、研究グループは述べている。
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