免疫寛容と免疫応答が同時に同部位で生じる矛盾を検証
京都府立医科大学は7月3日、子宮内膜症における免疫制御機構を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 女性生涯医科学のカーン・カレク准教授と北脇城教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
子宮内膜症は、本来子宮内腔にしか存在しないはずの子宮内膜に類似した組織が子宮以外の部位(腹腔内・卵巣・腸・膀胱など)に異所性に増殖する疾患。性成熟期女性の約10%に発生し、月経痛や慢性骨盤痛などの痛みのほか、不妊などにより女性の健康を著しく損なう。病因としては、月経血中の子宮内膜の一部が卵管を通って腹腔内に逆流し生着するという「移植説」が古くから有力である一方で、その発症および進展メカニズムは長らく謎とされ、いまだ根本的な治療法は確立されていない。
制御性T細胞(Treg)は免疫応答を抑制するT細胞の一種で、自己免疫寛容に必須の細胞。子宮内膜症病巣局所ではエフェクターT細胞や炎症性サイトカインの増加により免疫応答が起こっており、免疫寛容と応答が同時に同部位で生じている。この矛盾に対してはこれまで大きな謎とされてきた。そこで、今回研究グループは、TregとエフェクターT細胞の中でも子宮内膜症で重要な役割を果たすとされているTh17細胞の分布について検証した。
子宮内膜症が進行するにつれて、Treg>Th17に移行
研究グループは、子宮内膜症(早期例、進行例)および非子宮内膜症患者から血液・腹水を採取し、TregとTh17細胞の分布状態について検討した。その結果、Tregは患者の末梢血よりも腹水において上昇していた。また腹水のTregは、子宮内膜症重症例の方がより上昇していた。一方、末梢血や腹水中のTh17細胞の分布は、子宮内膜症および非子宮内膜症患者間で差を認めなかった。またTh17細胞の割合はTregと比べて5分の1~10分の1程度と低いことがわかった。研究グループは、腹水におけるTreg分布が高いことから、子宮内膜症局所のエフェクターT細胞を抑制し、子宮内膜症を重症化させている可能性があると考察している。一方、Th17細胞の分布が低いことは局所のエフェクターT細胞が抑制されていることを示唆する所見と考察している。
子宮内膜症の腹膜病変はさまざまな所見を呈する。なかでも赤色病変は初期段階の病変で最も活動性が高く、次いで黒色から白色へと色調が変化すると考えられている。それぞれの病態での細胞分布を調べた結果、赤色病変を有する腹水中のTregは黒色病変よりも多く認められ、一方Th17は黒色病変により多く分布していることが判明。以上のことから、Th17とTregのバランスが子宮内膜症の病態形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
今回、子宮内膜症が進行するにつれて、TregとTh17のバランスはTreg優位に移行していくことが、患者の血液や腹水を用いた解析から明らかになった。「子宮内膜症活動性病変では免疫寛容が促され、子宮内膜様組織の生着を許し子宮内膜症を引き起こしている可能性が考えられる。これは、これまで免疫応答と免疫寛容が同部位で生じると考えられてきた子宮内膜症発症進展メカニズムにおける矛盾点を一気に解決できる可能性がある。腹腔内環境においてTregを抑制し、Th17細胞を誘導するような新たな治療法や予防法の確立が期待される」と、研究グループは述べている。
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