重症例では破壊性関節炎が進行、人工関節を入れる手術が必要に
名古屋大学は7月2日、多中心性細網組織球症(MRH)の患者2人の遺伝子解析を行い、その成果として、同疾患の発症メカニズムを発見したと報告した。この研究は、同大学医学部附属病院リハビリテーション科の西田佳弘病院教授、同医学部附属病院ゲノム医療センターの奥野友介病院講師、整形外科の酒井智久医員、同大学医学部医学系研究科小児科学の村上典寛大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、ヨーロッパ血液学会(European Hematology Association)から発行されている科学誌「Haematologica」電子版に掲載された。
画像はリリースより
MRHは多発性の皮膚腫瘤・軟部腫瘤と全身の関節に関節リウマチに類似した破壊性関節炎をきたす自己免疫性疾患。1937年に初めて報告されて以降、これまでに世界でわずか200~300例程度しか報告のない、非常にまれな疾患だ。これまでは、関節リウマチに対して行われるような免疫抑制療法や生物学的製剤を用いた治療が行われていた。特に重症例では、破壊性関節炎の進行により人工関節を入れる手術が必要となり、患者の生活の質(ADL)が大きく損なわれてしまうことが問題となっている。
自己免疫疾患ではなく、腫瘍の一種である可能性
研究チームは、2人のMRH患者に対し、次世代シーケンサーを用いて「全エキソーム解析」、「RNA シーケンス解析」を実施。その結果、1人の患者で FGFR1融合遺伝子の活性型変異を発見した。FGFR1は受容体型チロシンキナーゼと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子で、肺がんや乳がんなど多くのがんで、FGFR1 チロシンキナーゼが関連した融合遺伝子が原因となることが知られている。
またもう1人の患者では、 MAP2K1(MEK1)の活性型変異を発見。MAP2K1(MEK1)は RAS経路に関連した遺伝子で、悪性黒色腫や急性骨髄性白血病など多くのがんで、この遺伝子の異常な活性化を引き起こす遺伝子変異(活性型変異)が原因となることが知られている。
これにより、MRHはこれまで考えられていたような関節リウマチに似た自己免疫疾患ではなく、腫瘍の一種である可能性が示唆された。この結果に基づいて、重篤な関節炎の進行による ADL の低下が大きいMAP2K1遺伝子に変異を認めたMRH患者に対し、抗がん剤を用いた治療を行ったところ、多発性の皮下腫瘤の縮小、破壊性関節炎の改善が認められた。
この研究で得られた成果により、今後、同疾患に対する新たな治療アプローチを開発することができ、治療の向上が期待される。
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・名古屋大学 プレスリリース