早期発見・診断が重要な厚労省の指定難病「肺高血圧症」
東北大学は7月3日、座った姿勢から寝た姿勢への姿勢変化と呼気ガス分析を組み合わせることにより、肺動脈性肺高血圧症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症の判別が非侵襲的に可能であること世界で初めてを示したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科内部障害学分野の秋月三奈大学院生、上月正博教授の研究グループが、循環器内科学分野の下川宏明教授、杉村宏一郎講師らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は「Respirology」に掲載されている。
画像はリリースより
肺高血圧症は、病状の経過が悪くなる可能性が高い厚生労働省の指定難病。日本国内での患者数は、2017年時点で、肺動脈性肺高血圧症3,456人、慢性血栓塞栓性肺高血圧症3,439人と報告されている。肺の動脈が障害されることで肺の血流が減少し息苦しさを感じたり、進行すれば心臓に大きな負担がかかり、心不全を引き起こすこともある。近年、肺高血圧症の病態の解明と治療薬の開発が進み、治療法が進歩しつつあるが、治療を早期に行うほど生存率が上昇するため、早期発見・診断が非常に重要となる。また、肺高血圧症のうち「肺動脈性肺高血圧症」と「慢性血栓塞栓性肺高血圧症」は、症状が非常に似ているために判別が難しい。診断には心臓超音波検査や右心カテーテル検査、胸部CT検査など、さまざまな検査が必要で、それも患者の大きな負担となっている。
肺高血圧症患者の姿勢変化により肺血流再分配が減少することに注目
健常者は、肺動脈は伸縮性に富み血流に対する予備能(肺血管予備能)が大きいため、座った姿勢(座位)から寝た姿勢(臥位)になると肺への血流量が多くなる(肺血流再分配)。一方、肺高血圧症患者は、肺血管が狭窄あるいは閉塞するため肺血管予備能が低下し、座位から臥位へなっても肺血流再分配が起こらないことが知られている。
研究グループは、肺高血圧症患者で姿勢変化による肺血流再分配が減少あるいは起きないことに注目。研究では、検査の結果、肺高血圧症でなかった患者と検査で新たに肺高血圧症と診断された肺高血圧患者に対して6つの検査(右心カテーテル検査や心臓超音波検査、血液生化学検査、6分間歩行距離、呼気ガス分析)を行い、その結果を比較。呼気ガス分析によって、肺高血圧症の診断や肺動脈性肺高血圧症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症の区別ができることを世界で初めて示した。
呼気ガス分析により、肺高血圧症患者は座位から臥位への姿勢変化に伴う呼気終末二酸化炭素分圧の値が非肺高血圧症患者より低下すること、さらに、姿勢変化に伴う二酸化炭素換気当量の変化量から肺動脈性肺高血圧症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症が区別できることを明らかにした。「本研究の結果が、患者への負担が少ない簡易な肺高血圧症の検査法として多くの医療施設で手軽に導入されることで、肺高血圧症の早期発見、早期治療につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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