長崎県薬は、昨年度から調剤情報共有システム「おくすりネット長崎」の運用に着手した。同ネットの取り組みに参加する各薬局のレセプトコンピュータに入力された調剤情報は、日々、データ送信用の専用機器を介して県外2カ所に設置されたデータセンターに集積される。
調剤情報をもとに、薬局薬剤師は安全な専用ウェブサイトを通じて、同意を取得した患者について、これまでにどの薬局でどんな調剤薬を受け取ったかという調剤履歴を時系列で閲覧できる。同時に、自薬局から送信した調剤情報と過去の調剤情報を照らし合わせて重複投与と相互作用を自動的にチェックした結果も把握できる。
調剤情報は、紙や電子のお薬手帳にも記載されているが、あくまで患者が管理する情報源であるため、情報に抜けが生じる可能性がある。情報の信頼性も完全には保証できない。薬局が連携して情報を確実に集積する体制を構築し、お薬手帳と併せて利用することで、これら課題を解決できる。薬剤師は十分な情報を得て、幅広い薬学的介入を実施しやすくなる。重複投与や相互作用のチェックも機械的に漏れなく行える。
システムを実効性のあるものにするためには、いかに多くの薬局に参加してもらうかがカギになる。長崎県では以前から、五島市が音頭をとって地元薬剤師会と連携し、同様のシステムを運用してきた。
五島市の事例をもとに、長崎県薬は昨年度から諫早市をモデル地域として調剤情報共有システムの運用に着手。諫早市内の会員薬局64軒のうち55軒が参加を表明し、現在専用機器の設置や開通テストを進めている。今月以降、運用を開始する計画だ。
共有システムの運用の取り組みが、今年度の厚労省「薬局の連携体制整備のための検討モデル事業」に採択された。事業費をもとに今後、対象地域を広げる。長崎市など県内数カ所の地域で合計200薬局に専用機器を設置する予定。機器の費用や設置には約3万円、月間のシステム利用料として1500円が必要になる。事業費でこれらの費用をまかなう。今夏に説明会を開き、秋からの運用開始を目指している。
県内各地でシステムを運用した成果として、重複投与や相互作用の抑制件数や医療費削減効果の推計を示したい考え。来年度以降の事業費の手当ては未定だが、安全性向上や医療費抑制につながることを示して、各地自治体の協力も得ていきたいという。
今夏以降には、病院薬剤師も同じウェブサイトで、同意を得た患者の調剤情報を閲覧できるように体制を整備する。入院時に調剤情報を一元的に把握することで、持参薬の鑑別作業は軽減され、入院後の薬学的な介入を実施しやすくなる。退院時には処方情報を病院からシステムにアップロードしてもらえるように、検討も進める。
医師など他の医療職も、患者から同意を取得すれば医療情報共有システム「あじさいネット」を通じて、集積した調剤情報を閲覧できる。今後、「おくすりネット長崎」の拡充を進め、県内の医療情報インフラとして確立したい考えだ。