「患者体内で抗加齢物質が減少している」という仮説を検証
日本医療研究開発機構(AMED)は7月2日、パーキンソン病患者血清中のポリアミン(スペルミン)とその代謝産物種がパーキンソン病診断・重症度評価のバイオマーカーになりうることを発見し、さらに、パーキンソン病患者ではオートファジー誘導作用によって長寿効果を持つとされるスペルミン産生が年齢にかかわらず一貫して低下していることを明らかにしたと発表した。この研究は、順天堂大学大学院医学研究科神経学の斉木臣二准教授、服部信孝教授、老人性疾患病態・治療研究センターの吉川有紀子特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、米国神経学会誌「Annals of Neurology」のオンライン版で公開されている。
画像はリリースより
パーキンソン病は有病率が10万人あたり140人に上る日本で2番目に多い神経変性疾患で、運動に関する症状(手足・首が震える、手足がこわばる)が徐々に進行する。研究グループは以前から、微量血液に含まれる、パーキンソン病患者の病状を正確に反映するバイオマーカーを探索しているが、現時点では臨床応用されているものはない。今回、研究グループは「パーキンソン病発症率が加齢とともに大きく上昇する」ことに着目し、患者体内で抗加齢効果を持つ物質が減少しているという仮説を立て、研究を開始した。
血中ポリアミンはバイオマーカーとして有用であると判明
まず、パーキンソン病患者を含む集団血漿データ(健常者45名、パーキンソン病患者145名)を検討し、抗加齢効果を持つスペルミジンから作られるN8-アセチルスペルミジンの値が上昇していることを発見。スペルミジンやスペルミンはポリアミンの一種であり、線虫・ショウジョウバエ・マウスにおいてオートファジーを誘導することで、運動機能保持・記憶力保持・心機能保護等の抗加齢効果を持つ。
次にパーキンソン病患者体内でポリアミンがどのように代謝されているかを解明するため、別集団(健常者49名、パーキンソン病患者186名)において病期・重症度との関連を血清ポリアミンとその代謝産物7種(スペルミジン、スペルミン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N12-ジアセチルスペルミン、N-アセチルスペルミン)に拡張して評価し、併せてMRIにおける脳実質の変化との関係や代謝酵素遺伝子変異を調べた。その結果、パーキンソン病患者群ではジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、ジアセチルスペルミン、スペルミジンが有意に増加している一方、スペルミンは減少していることを発見。これらの代謝物のうち、ジアセチルスペルミジンはパーキンソン病の重症度に相関して上昇していた。また、ポリアミン7種の各濃度により高確率でパーキンソン病を診断できることがわかり、バイオマーカーとしての有用性が実証できた。パーキンソン病患者では黒質ドパミン神経細胞だけでなく、他の神経軸索ネットワークも障害されているが、無作為に抽出したパーキンソン病患者20名のMRI像の脳の軸索変化とジアセチルスペルミジン値の関係を検討したところ、ジアセチルスペルミジンが高いほど、脳の軸索障害が強いことがわかった。
スペルミンの抗加齢作用低下にオートファジーが関与の可能性
研究グループはさらに、パーキンソン病患者群ではスペルミジンが増加しているにも関わらず、その下流代謝物であるスペルミンが減少していることに着目。実際、スペルミン/スペルミジン比はパーキンソン病患者で有意に低下しており、健常者では加齢に伴いスペルミン/スペルミジン比が低下するのに対し、パーキンソン病患者群では年齢に関係なく低値を示した。この結果は加齢が最大のリスクとされるパーキンソン病患者では、スペルミンによる抗加齢作用が低下していることを示唆するもの。また7種のポリアミン化合物の中でスペルミンが神経系細胞で最も高いオートファジー誘導能を示した。
研究グループは、オートファジー誘導能が最も高いスペルミンについて、その体内濃度を調節する仕組み・オートファジーを誘導する仕組みについて検討を続けており、加齢メカニズムとパーキンソン病の発症メカニズムとの関係をさらに明らかにすることで、パーキンソン病の新たな治療法の開発を目指していくとしている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース