治療困難な心臓の線維化メカニズムを研究
東京大学医学部付属病院は7月1日、心臓に集積するマクロファージが心臓の線維化を抑制していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同病院循環器内科の武田憲彦特任講師らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に6月27日付で掲載された。
画像はリリースより
心不全の病態では、心臓は肥大あるいは拡大などの形態的変化(リモデリング)を起こす。リモデリングしている心筋組織には線維化が生じており、マクロファージなどの炎症細胞が集積している。心筋組織の過剰な線維化はHFpEFという難治性の心臓病を引きおこすと考えられている。そのため心臓線維化がどのように調節されているかが理解できれば、心不全に対する新たな治療法の開発につながる可能性があると考えられてきた。
研究グループは、心臓に集積するマクロファージが心筋組織の線維化に関与していると仮説を立て、研究計画を立てた。これまで低酸素環境で活性化する転写因子Hypoxia inducible factor(HIF)-1αシグナルがマクロファージを遊走させることを報告しており、引き続きHIF-1αシグナルに着目することで心臓線維化のメカニズムを解明したいと考えた。
マクロファージがオンコスタチンMを産生して過剰な線維化を抑制
今回研究グループは、マウスの横行大動脈を縮窄することで心臓線維化、リモデリングを誘導する病態モデルを用いて研究を行った。まず燐光プローブを用いた検討で心筋組織が低酸素状態になっていることを見出した。次に、フローサイトメーターを用いた解析から心臓の低酸素部位にマクロファージが集積していることを確認した。さらにマクロファージのHIF-1αシグナルを抑制したマウスを用いて解析した結果、マクロファージがHIF-1αシグナルを使って心臓に集積していることが判明。HIF-1αシグナルを抑制すると心臓に集積するマクロファージが減る。同シグナルを抑制したマウスでは心臓の線維化が増加していたことから、心臓に集積するマクロファージが線維化を抑制していると考えられた。
さらに、心臓に集積するマクロファージが線維化を抑制するメカニズムを探索し、マクロファージがHIF-1αシグナルを使ってサイトカインのひとつであるオンコスタチンMを産生することを発見。詳細に解析した結果、オンコスタチンMがTGF-β/Smadシグナルを抑制することで心臓線維芽細胞の活性化を予防し、心筋組織の線維化を抑制していることがわかった。
これらの結果から、心臓に集積するマクロファージはオンコスタチンMを産生することで、心臓の過剰な線維化を抑制していることが明らかになった。「オンコスタチンMによる心臓線維化予防効果は今後心臓線維化や心不全に対する新たなに治療標的になる可能性が考えられる」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医学部付属病院 プレスリリース