侵襲や副作用を伴う治療を勧める場合、特に重要となる「治療同意能力」
岡山大学は6月28日、薬の開始を相談するという比較的単純な治療場面においても、軽度認知障害の患者のうち30%程度で治療同意能力が失われていることを明らかにし、また、治療同意能力が失われていた対象者のうち40%程度については、主治医が患者の治療同意能力欠損に気付いていなかったことも判明したと発表した。この研究は、同大学院医歯薬学総合研究科(医)精神神経病態学の大島悦子医師、寺田整司准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、世界老年精神医学会の学会誌「International Psychogeriatrics」電子版に掲載されている。
治療同意能力は、患者が自らの治療を決定する重要な機能。高齢者に治療の説明をしてサインをしてもらったものの、十分に説明の内容を理解してくれているのか不安になった経験をもつ医療者は多いと推測される。健診や予防接種のように、危険性が低い医療を行う際には大きな問題にならないが、侵襲や副作用を伴う治療を勧める場合には、説明を理解できるかどうかは非常に重要だ。特に、認知機能の低下した患者に説明する際には、その同意能力について慎重に判断する必要がある。
「治療同意能力欠損」の可能性を、医療者側が認識することが大切
これまで認知症については多くの研究が行われ、治療同意能力を欠いている例が多いことが報告されてきた。しかし、認知症のリスク段階である「軽度認知障害」においては、治療同意能力があると判断して良いのか否か明らかにされていなかった。そこで、研究グループは、軽度認知障害患者40名と、健常高齢者33名を対象に、MacCAT-Tという評価方法を用いて、治療同意能力の有無を評価。その結果、軽度認知障害患者の3分の1が、口頭の説明だけでは十分に理解して治療に同意することが難しいことが明らかになった。さらに、患者の治療同意能力が欠損していることに主治医が気付かない例が多数存在することを示した。
医療の現場で、説明を受ける患者の認知機能をその都度評価することは現実的ではない。しかし、説明をする医療者は、相手が高齢の場合には、認知症の診断を受けていなくても、十分な治療同意能力を失っている場合が少なくないということを認識しておく必要がある。今回の研究結果が認知されることにより、医療者側の意識が変わっていくことが望まれると、研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース