■医薬品情報学会で議論
人工知能(AI)の導入で薬剤師の仕事が奪われるのか――。急速に進むAI開発によって薬剤師業務に置き換わる可能性が大きな注目を集め、脅威論も広がる中、6月29日に札幌市内で開かれた第22回日本医薬品情報学会学術大会では、医療現場の医薬品情報(DI)業務にAIを活用している施設の事例をもとに議論を展開。DI業務や対物業務の部分をAIで効率化しつつ、薬剤師の専門性で付加価値を創造することにより、AIと共存できるとの意見で一致した。今後、AIをうまく活用しながら薬剤師業務を発展させていくことの重要性が共通認識となりそうだ。
望月伸夫氏(国立がん研究センター東病院薬剤部)は、AIを活用した医薬品情報問い合わせ支援システムの開発事例を紹介。現在は国立がん研究センター中央病院・東病院、国立国際医療研究センター、国立循環器病研究センターの4施設で問い合わせデータベースの登録を進めているが、今後は国立病院機構に登録を拡大し、実証実験を実施していく方向性を提示。「それぞれの患者に適した個別の医療情報の提供が求められる時代になるのではないか」と展望した。
一方、望月氏は、AIと薬剤師の専門性について言及。コミュニケーションや答えがない問題の判断評価など、AIが苦手なことに力を入れていくことが重要と強調した。その上で、「知識が多いから専門家ではない。いかに付加価値を創造していくかを考えていかなければならない」と述べ、「知識が多ければ専門家とみなされた時代は終わった。専門家として責任ある態度が求められていく」との考えを示した。
神崎浩孝氏(岡山大学病院薬剤部)は、AIを薬剤師業務に生かすことについては、「AIに奪われて良い仕事は、もともと効率化すべき仕事」との考えを示し、「完全にAIに置き換わることはないのではないか」と述べた。
その上で、AIを導入した医薬品情報提供システム「aiPharma」の開発事例を提示。DI室への問い合わせ事例をAIに学習させ、医薬品情報の提供と管理を進めてきた中、「今後は医薬品情報の提供だけではなく、情報の収集から管理、共有、提供までを一元管理できるシステムの構築を目指したい」と展望した。
湯本哲郎氏(星薬科大学先端生命科学研究所応用医療情報研究室)は、AIを活用したかかりつけ薬剤師支援システムの開発例を紹介した。かかりつけ薬剤師について、高度で幅広い知識を活用した課題解決能力を備えた「ハイパフォーマンスジェネラリスト」であるべきとの考えを示し、生涯教育や認定取得など既存の方法論では限界があると指摘。「情報リテラシーの部分をAIで支援したい」と有効活用を訴えた。
システム開発ベンダーの立場から、木村隆夫氏(木村情報技術)は、DIにおけるAI活用について、AIに利用するDIの構造化データが提供されていないことやインタビューフォームなど製薬企業に著作権があるための利用制限といった問題点を列挙。「データベースを構築しない限り、AIの恩恵には預かれない」として、全医薬品の問い合わせの受け答えに対応するAIを構築してプラットフォーム化するAI-DI構想を立ち上げたことを報告した。
さらに今後、添付文書や基本的な問い合わせを搭載したAIシステムを年内にリリースすると共に、新たに病院薬剤部DI室、保険薬局、製薬企業、医薬品卸などによる「AI-DI連携コンソーシアム」を立ち上げる構想を明らかにした。木村氏は、年内に30施設の利用を開始し、2020年6月までに100施設への拡大を目指す計画を示し、システムへの問い合わせ登録を呼びかけた。