介入可能な認知症のリスク因子である「難聴」
筑波大学は6月27日、平成28年に行われた「国民生活基礎調査」の回答データを用いて、65歳以上の人々における難聴(きこえにくさ)と外出活動制限・心理的苦痛・もの忘れの関連を解析し、その結果を報告した。この研究は、同大医学医療系のヘルスサービスリサーチ分野/ヘルスサービス開発研究センターと耳鼻咽喉科、および筑波技術大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Geriatrics&Gerontology International(日本老年医学会の公式英文誌)」に掲載された。
画像はリリースより
難聴が健康寿命に影響を及ぼすメカニズムはいくつか考えられ、具体的には外出活動制限、心理的苦痛、もの忘れ等が、経路となる因子として考えられる。特にもの忘れは認知症のリスク因子である可能性が指摘されており、「認知症予防、介入、ケアに関するランセット委員会報告」によると、介入できる可能性がある認知症のリスク因子(教育レベルの低さ、高血圧、肥満、難聴、喫煙、うつ病、運動不足、社会的孤立、糖尿病)のひとつとして難聴が挙げられている。これまで米・英などの諸外国では、高齢者の難聴とさまざまな指標との関連が大規模に検討されてきていたが、日本において国全体の規模でこのような検討は行われていなかった。
特にもの忘れと強く関連、難聴対策が健康増進につながる可能性も
研究グループは、厚労省による平成28年の「国民生活基礎調査」の回答データを2次利用申請の形で取得し、研究を行った。この調査に協力した22万4,641世帯(回答率77.6%)のうち、自宅で生活する65歳以上の高齢者(調査時点で認知症のために通院していた人は除く)13万7,723人(平均年齢74.5歳、男性割合45.1%)を解析対象とした。調査票(健康票)の中で、現在の自覚症状として「きこえにくい」に〇をつけた人たちを難聴がある人と判断。難聴の評価項目として、外出活動制限、心理的苦痛、もの忘れの3つを設定(いずれも自己申告)した。
その結果、1万2,389人(9.0%)が「きこえにくい」と回答。また、「きこえにくい」と回答しなかった人に比べ、外出活動制限、心理的苦痛、もの忘れ、いずれの割合も高いことがわかった。さらに、難聴による相対リスク(調整後オッズ比)は、外出活動制限に対して2.0、心理的苦痛に対して2.1、もの忘れに対して7.1であることが示されたという。これらのことから、高齢者の難聴は外出活動制限、心理的苦痛、もの忘れと関連があり、特にもの忘れと強い関連があることが示唆された。
研究グループは、「加齢に伴う難聴に対して、早期から適切な介入を行うことで、外出活動制限・心理的苦痛・もの忘れの一部が予防・軽減できる可能性がある。また、難聴がある高齢者が生活しやすいような環境を作ることも社会に求められているのかもしれない。本研究の結果を通じて、難聴を訴える高齢者への医療・社会的な対策が健康増進対策のひとつとして考慮されることが期待される」と、述べている。
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