視交叉上核におけるGABAの機能を研究
名古屋大学は6月24日、睡眠・覚醒リズムを調節する概日時計中枢のGABA作動性神経が、概日リズムの出力に関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環境医学研究所の小野大輔助教、山中章弘教授らの研究グループが、北海道大学の本間研一名誉教授、同大脳科学研究教育センターの本間さと客員教授、群馬大学の柳川右千夫教授と共同で行ったもの。研究成果は、英国科学雑誌「Communications Biology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの睡眠・覚醒のサイクルは、1日24時間ごとに繰り返されている。この24時間のリズムを担うのが「概日時計」で、概日時計の中枢が視床下部の「視交叉上核」に存在する。視交叉上核は、そのほとんどが抑制性の神経伝達物質「GABA」陽性細胞であることが知られているが、視交叉上核におけるGABAの機能は、これまでよくわかっていなかった。
視交叉上核のGABA が、概日リズムの出力に影響
研究グループは今回、発光・蛍光イメージングと多電極ディッシュを用いて、GABA合成酵素やトランスポーター欠損マウスの視交叉上核から、時計遺伝子、細胞内カルシウムイオン、神経活動を同時に計測。GABA機能欠損マウスの視交叉上核は、時計遺伝子の概日リズムは正常であったものの、神経活動には高頻度自発発火が確認でき、それと同時に細胞内カルシウムイオンの上昇が観察された。これらの結果は、視交叉上核のGABAは時計遺伝子による概日リズム発振には必要ないが、そこからの出力にあたる細胞内カルシウムイオンや神経活動に大きな影響を与えていることを意味するという。
次に、視交叉上核からの出力である行動リズムへの機能の影響を検証。アデノ随伴ウイルスを用いて、マウスの視交叉上核特異的にGABAトランスポーターを欠損させたマウスを作成し、自発行動量を計測した。その結果、視交叉上核特異的GABA機能欠損マウスの自発行動量は低下し、概日リズムは破綻した。この結果は、視交叉上核のGABAは睡眠・覚醒リズムの出力に影響を与えていることを示す。
これまで、視交叉上核内の細胞間ネットワークメカニズムに注目した研究が多く行われてきた。しかし、睡眠・覚醒や体温調節、ホルモン分泌などのさまざまな生理機能の時間調節は、視交叉上核のリズムだけでは説明できず、各機能へどのように出力されているか解明することが重要だ。「今回の研究成果から、これらの生理機能の調節に関わる神経経路が明らかにされ、概日時計が関与するさまざまな疾患の新しい治療法が開発されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース