がん細胞と精巣に共通して特異的に発現する「CTA」
東北大学は6月24日、精巣の生殖細胞とがん細胞で特異的に共通して発現する、84種類のがん・精巣抗原タンパク質(CTA)の過半数が、がん細胞の増殖・生存を促進する働きがあり、さらにそのひとつであるTEKT5が、精子形成にも働いていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久教授、生命科学研究科博士後期課程の青木七菜氏らの研究グループによるもの。研究結果は、「Molecular and Cellular Biology」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
がん・精巣抗原(CTA)は、ヒトのがん細胞と精巣で、共通して特異的に発現するタンパク質として同定され、これまでに270種類あまりのヒトCTA遺伝子が同定されている。そのうちのいくつかは、がん細胞または精巣生殖細胞での機能が示されているが、多くのCTAの機能は不明のままだった。特に、生殖細胞とがん細胞の両者で機能するCTAは知られていなかった。
84種類中47のCTAが、がん細胞の増殖と生存に関与
そこで研究グループは、生殖細胞での機能解析が容易なマウスを対象として、まず、ヒトCTA遺伝子のマウスホモログ遺伝子を同定。次いで、それらのがん細胞の増殖・生存における役割の解析を、マウスがん細胞株でのRNA干渉によるノックダウン実験により行った。その結果、調べた84種類のCTA遺伝子のうち47遺伝子が、がん細胞の増殖・生存に関わることを発見した。
さらにCTAのひとつであるTEKT5タンパク質が、チューブリンタンパク質の重合によりできる細胞骨格を形成する微小管の構造を、チューブリンのアセチル化の維持を介して保つ働きがあること、そしてこの微小管の維持により、細胞周期を抑制するシグナル分子 SMAD3の細胞核への移行を阻害し、がん細胞の増殖・ 生存を維持する働きがあることも判明。一方で、精巣でのTEKT5ノックダウン実験により、TEKT5がチューブリンタンパク質の維持を介して精子形成の最終段階で働くことも明らかにした。
これらの研究成果は、がん発症の新たな制御機構の解明と、それを利用した治療法の開発につながる可能性がある。また研究グループは、生殖細胞とがん細胞の制御機構の接点の解明を通じて、異なる細胞の機能や分化が、同一のタンパク質により制御される、細胞制御の新たな局面の解明につながる可能性があるとみている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース