脊椎動物における役割が不明な「カラクシン」
筑波大学は6月20日、繊毛のカルシウムセンサーであるカラクシンが繊毛病の発症に関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学生命環境系(下田臨海実験センター)の稲葉一男教授、佐々木恵太元大学院生、柴小菊助教、中村彰宏元研究員らが、大阪大学微生物学研究所の伊川正人教授、佐藤裕公元講師、国立成育医療研究センター細胞医療研究部の宮戸健二博士、東京大学大学院医学系研究科の吉川雅英教授、明治大学農学部河野菜摘子准教授、筑波大学生命環境系の馬場忠教授、基礎生物学研究所の野中茂紀准教授、愛知教育大学上野裕則准教授らの各研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Communications Biology」に同日付で公開された。
画像はリリースより
カラクシンは、鞭毛や繊毛の分子モーターであるダイニンのカルシウムセンサーで、同研究グループが数年前に、海産生物であるホヤで発見した。ホヤでは、カラクシンが鞭毛の波形制御を介した精子の走化性(卵に向かって動いていく現象)に必要であることが明らかにされている。しかし、脊椎動物におけるカラクシンの機能は不明だった。
カラクシン欠損で内臓逆位や水頭症などの繊毛病が発症
今回の研究では、カラクシンを欠損するノックアウトマウスを解析。カラクシンは、ホヤでは精子の走化性に重要であることから、これを欠損したマウスは不妊になると期待された。しかし予想に反し、仔マウスの数は減少するものの、雌雄とも不妊にはならなかった。カラクシン欠損マウスに最も顕著に現れた症状として、脳室が拡大する水頭症と、心臓や肝臓の位置が左右逆転する内臓逆位が見られた。これらは「繊毛病」と呼ばれる症候群に見られる症状に一致していた。一方、精子の鞭毛や気管上皮繊毛、脳室の上衣細胞繊毛を調べた結果、鞭毛や繊毛は正常に形成され、それらの内部構造も見かけ上、正常のマウスと変わらなかった。しかし、これらの鞭毛や繊毛の運動を詳細に解析した結果、形成される屈曲波の伝播に異常が見られることが判明した。
さらに、左向きの水流を起こすことにより内臓の非対称性を司っていることが知られているノード繊毛を調べてみたところ、カラクシン欠損マウスではその数が著しく減少し、方向性を持った水流は起こらなかった。魚類のクッペル胞(ノードに相当)においても水流がランダムになることが観察されたが、繊毛は正常に形成された。
以上の結果から、カラクシンの欠損により、正常に繊毛形成が起こりつつも屈曲運動が異常になり、結果的に繊毛病につながること、マウスのノード繊毛形成にはカラクシンが重要な役割を果たすことが明らかになった。魚類クッペル胞の繊毛は、内部構造がマウスのノード繊毛とは異なることから、カラクシンの機能は繊毛の構造と密接に関係している可能性も示唆された。今回の研究は、繊毛運動のカルシウム調節が生物で保存されていることを示したことに加え、繊毛病発症のメカニズムを解明する上でも重要な成果であり、医学など他分野への貢献が期待される。
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・筑波大学 プレスリリース