高齢者を対象に、残存歯の有無と生活習慣病等との関連性を評価
富山大学は6月12日、平成26年に富山県が実施した富山県認知症高齢者実態調査の追加分析を行い、高齢者の歯の喪失に関する新たな知見を得たことを公表した。この研究は、同大地域連携推進機構地域医療保健支援部門の関根道和教授と、敦賀市立看護大学の中堀伸枝助教らが共同で行ったもの。研究成果は、「BMC Public Health」に掲載されている。
画像はリリースより
歯の喪失は、噛む力が弱まることで、少食や偏食などによる栄養不良の原因となる。その結果、筋力が低下するなど虚弱になりやすく、高齢期における生活の質(QOL)を低下させる。
富山県認知症高齢者実態調査の対象者は、県内の65歳以上の高齢者から0.5%無作為抽出された1,537人のうち、同意の得られた1,303人(同意率84.8%)。そのうち、今回の研究では、残存歯のない275人と、残存歯がある898人の計1,173人を対象に、残存歯の有無と、教育歴や生活習慣病等との関連性を評価した。
教育歴の長さ、肉体労働の職歴の有無も大いに関係
喫煙や糖尿病は、口腔内の免疫力を低下させ、虫歯や歯周病の原因となることが知られており、結果として歯の喪失リスクが増加すると考えられている。また、骨粗しょう症でも、骨強度の低下により、歯の喪失が起こりやすくなるとされる。今回の分析でも、喫煙する人、糖尿病や骨粗しょう症の人の歯の喪失に対する調整オッズ比は、それぞれ4.05、1.72、1.88で、喫煙で約4倍、糖尿病や骨粗しょう症で約2倍の喪失リスクだった。
また、教育歴による口腔衛生習慣の差が、歯磨き回数や虫歯の本数にも影響を与えると考えられていたが、実際に、教育歴が10年以上の人を基準とした教育歴が6年以下の人の歯の喪失に対する調整オッズ比は3.07で、短い教育歴の人の歯の喪失リスクは約3倍だった。つまり、教育歴が短いほど、残存歯がない人の割合が高い傾向にあることが裏付けられた。
さらに、肉体労働の職歴のある人が歯を喪失しやすいことはすでに知られており、その背景には、交代勤務など仕事に関連した不規則な生活習慣などがあると考えられていたが、分析の結果、残存歯なし群においては、肉体労働の職歴の割合が高く、非肉体労働を基準とした肉体労働の職歴の歯の喪失に対する調整オッズ比は1.93で、約2倍の喪失リスクがあることがわかった。
研究グループは、「今回の研究結果から、歯の喪失を予防して高齢期を健やかに過ごすためには、小児期から高齢期までの一生涯にわたる分野横断的で総合的な対策が重要であることが分かった」と、述べている。
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