強く求められている「アルツハイマー病」の根治・予防につながる新たな戦略
東京大学は6月18日、ポリフェノールの一種、ロスマリン酸を摂食したマウスの脳内において、ドーパミンをはじめとするモノアミンの濃度が上昇し、それらがアルツハイマー病の主病態であるアミロイドβ(Aβ)凝集を抑制することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科の小林彰子准教授と金沢大学大学院医薬保健学総合研究科山田正仁教授、福島大学平修教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載された。
画像はリリースより
近年、世界でアルツハイマー病患者が増加し、その対策は急務となっている。アルツハイマー病は脳内に毒性の高いAβペプチドの凝集体等が蓄積することにより、神経細胞死などが生じ、記憶や認知力が低下する病気。既存のアルツハイマー病治療薬は症状を緩和する対症療法に過ぎず、根本的な治療予防につながる新たな抗アルツハイマー病戦略が求められている。
ロスマリン酸摂取でモノアミン上昇、Aβの凝集を抑制
山田教授らは、ポリフェノールのAβ凝集抑制作用に着目し、アルツハイマー病モデルマウスで高いAβ凝集抑制活性をもつポリフェノールとしてロスマリン酸を見出してきた。ロスマリン酸は試験管内においても高いAβ凝集抑制活性を示すが、脳内への移行度は比較的低いため、直接Aβ凝集抑制をする以外にもマルチな作用を介して効果を発揮している可能性が考えられた。そこで、ロスマリン酸を摂食し、脳内Aβ凝集が抑制されたアルツハイマー病モデルマウスの脳を、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析にて精査したところ、ドーパミン作動性シナプス経路の活性化が示唆された。ドーパミンは高齢者やアルツハイマー病患者の脳内において減少していること、またドーパミン神経伝達の向上により認知機能障害が改善されることが報告されている。そこで実際にロスマリン酸を摂食した際にこれらの経路が活性化するかを検討したところ、11日間の摂食で大脳皮質において、ドーパミンをはじめとする4種のモノアミンが上昇していた。これらの上昇は、ドーパミンの合成部位である黒質および腹側被蓋野において、代謝経路に位置するMAOBおよびCOMTの発現を低下させることにより、投射先の大脳皮質において濃度を上昇させていることがわかった。試験管内でのAβ凝集抑制試験では、ロスマリン酸摂食により脳内濃度が上昇した4種のモノアミンすべてがAβ凝集活性を示した。
今回の研究で、ロスマリン酸の摂取により脳内でドーパミン関連物質が活性化され、それらがAβ凝集を抑制するという、新たなメカニズムが見出された。これらのモノアミン類はαシヌクレインの凝集抑制も報告されており、アルツハイマー病型以外の認知症での効果も期待されるもの。この成果は、ポリフェノールを摂取することにより、アルツハイマー病が予防される可能性を新たな切り口で示し、ポリフェノール摂取の意義を科学的に証明できたものといえる。なお、山田教授らの研究グループは、現在ロスマリン酸含有レモンバーム抽出物を用いた認知症予防介入試験を実施中。
▼関連リンク
・東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 研究成果