国内の患者数200万人、まだ有効な治療法が確立されていないNASH
国立国際医療研究センターは6月18日、マウスを用いた研究から、フェロトーシスと呼ばれる特殊な細胞死が、脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)発症への引き金を引いていることを明らかにしたと発表した。この研究は、国立国際医療研究センター研究所・細胞組織再生医学研究部の鶴崎慎也研究員、田中稔室長らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は「Cell Death & Disease」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
肝臓に脂肪が多く溜まった状態は脂肪肝と呼ばれ、重篤な肝臓病の原因となりうる。従来、肝臓病といえば過剰な飲酒やウイルス感染を原因とする疾患と捉えられてきたが、近年、あまりお酒を飲まない、または飲酒歴がないにも関わらず脂肪肝を背景に肝炎を発症し、やがては肝硬変や肝がんに進展しうるNASHが注目されている。現在、日本国内のNASH患者数は約200万人、炎症を伴わない脂肪肝からNASHまでを含む一連の肝疾患(NAFLD)は1000万人以上であると推定されており、社会的にも注目度の高い疾患となっている。今後も患者数の増加が予想されることから、予防法や治療法の開発は喫緊の課題であるが、有効な治療法はいまだ確立されていない。
一方、炎症の原因となりうる細胞死の研究分野では、近年、細胞が自ら死のプログラムを実行することで死に至る「計画的細胞死」と呼ばれる現象が続々と明らかになってきており、さまざまな疾患の発症や病態形成における計画的細胞死の役割や意義が注目されている。脂肪肝からのNASH発症では、脂肪の異常蓄積による肝細胞死の関与が指摘されていたが、どのような細胞死が原因となっているのかについてはこれまで不明だった。
脂肪肝からNASHを発症する起点にフェロトーシスという細胞死が関与
NASHでは、脂肪を過剰に蓄積した肝細胞が死ぬことで、肝炎が起きると予想されるため、今回の研究では、脂肪肝からNASHが発症する過程で、どのような細胞死が起きているのかを詳細に調べた。まず、細胞死の様式はアポトーシスとネクローシス(壊死)に大別されるため、肝臓内でどちらの細胞死が起きているのかを簡便に調べられる方法を確立。この方法を用いて、コリン欠乏エチオニン添加食餌によるNASHモデルマウスの肝臓を調べたところ、NASH発症後にはアポトーシスとネクローシスの両方の細胞死が混在した状態にあることがわかった。
そこで、どちらの細胞死が先に起きているのかを食餌投与後から時間を追って調べたところ、ネクローシスが先行して起きることで肝炎を発症していることが明らかとなった。さらに詳細に、どのような様式のネクローシスがNASH発症の引き金となっているのかを調べるため、特定の細胞死のみを阻害するような遺伝子改変マウスや阻害剤を用いて検討した。その結果、ネクロプトーシスと呼ばれる計画的細胞死を阻害しても、肝細胞死は抑制できずに肝炎を発症したが、フェロトーシスと呼ばれる計画的細胞死を阻害した場合、肝細胞死は抑制されるとともに、その後の炎症もほぼ完全に抑制された。
これまでに線維化や発がんといったNASH発症後の病態の進展には、ネクロプトーシスやアポトーシスといった計画的細胞死が関与するという報告はあったが、NASH発症の直接の引き金となる細胞死については不明だった。今回の研究成果は、脂肪肝からNASHを発症する起点にフェロトーシスという細胞死が関与することを、モデルマウスを用いた実験系で初めて明示しただけでなく、フェロトーシスの実行分子がNASHの予防や治療のための標的となりうることを示すもの。「今後は他のモデルマウスでの検証や、病態進展におけるフェロトーシスの役割や阻害効果についても検討していく必要がある」と、研究グループは述べている。(
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・国立国際医療研究センター プレスリリース