経口投与が可能な低分子化合物CDM-3008
京都大学は6月13日、経口投与が可能でインターフェロン様活性を持つ低分子化合物CDM-3008(RO4948191)が、B型肝炎ウイルス(HBV)のcccDNA(covalently closed circular DNA 完全閉塞本鎖)抑制効果などにより抗HBV活性を示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の掛谷秀昭教授、理化学研究所の古谷裕上級研究員、小嶋聡一同ユニットリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
インターフェロン製剤はHBVの鋳型となるcccDNAを分解できるため、B型肝炎の完治に向けて欠かせない注射剤だ。しかし、投薬の際には病院に行かなければならず、また発熱・倦怠感などの副作用を伴うなどの問題がある。
一方、核酸アナログ製剤(エンテカビルなど)は強力にHBVの複製を阻害するが、cccDNAを完全には抑制することはできず、治療の中止とともにHBVが再活性化する可能性がある。
副作用を軽減した新規抗B型肝炎治療薬の開発に期待
研究グループはインターフェロンの問題点の解決を目指し、経口投与が可能でインターフェロン様の活性を持つ低分子化合物CDM(cccDNA modulator)-3008の抗HBV活性を解析した。
CDM-3008(RO-4948191)は、イミダゾ[1,2-a][1,8]ナフチリジン骨格を有する分子量373の化合物で、C型肝炎ウイルス抑制効果が報告されていた化合物だが、HBVに関する薬効は不明だった。そこで研究グループは、初代培養ヒト肝細胞を用いて、CDM-3008のHBVに対する効果を検討した結果、CDM-3008はHBVDNA、cccDNA、HBsAg(B型肝炎ウイルス表面抗原)、HBeAg(B型肝炎ウイルスe抗原)の量を抑制することを明らかにした。
一方、CDM-3008は核酸アナログ製剤エンテカビルと相加的に抗HBV効果を示した。そこで、CDM-3008によって影響を受ける遺伝子群の発現解析を行った結果、CDM-3008はインターフェロンαと同様な細胞内シグナルを活性化することで抗B型肝炎ウイルス活性を発揮していることが示唆された。
さらにCDM-3008特異的に発現増強される遺伝子を解析した結果、STAT(Signal transducer and activator of transcriptionシグナル伝達兼転写活性化因子)シグナルを阻害するSOCS(Suppressor of Cytokine Signaling サイトカインシグナル伝達制御分子)ファミリーを同定した。これにより、CDM-3008がフィードバック阻害によりインターフェロン受容体からのシグナルをより強く抑制し、インターフェロンαの副作用軽減効果も期待されることが判明した。
今回の研究成果は、これまで注射剤として処方されているインターフェロン製剤を安価で経口投与が可能な低分子化合物に置き換え、核酸アナログ製剤と併用することによって、より効果的にB型肝炎ウイルスを抑制できる可能性を示している。現在、同研究グループでは、CDM-3008をリード化合物として精力的な構造活性相関研究を展開しており、今後、活性の向上、副作用を軽減した新規抗B型肝炎治療薬の開発が期待される。
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・京都大学 研究成果