高齢者に多い原因不明の「本態性振戦」
群馬大学は6月12日、身体が震えるメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の定方哲史教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Neuroscience」オンライン速報版に、6月15日に掲載される。
画像はリリースより
ヒトは緊張した時などに手足が震える。アルコール中毒でも手が震えることがある。また、震えは老化とともに顕著に見られる現象でもある。震え以外に症状が見られず、 原因がわかっていない病気を「本態性振戦」と言い、65歳以上の約14%と非常に多くの高齢者に見られる。本態性振戦は、意識でコントロールできない異常な動きであるため、細かい作業をする際には支障を来すこととなり、職種によっては高齢者が働き続ける上で大きな障害となる。このように日常的にもよく見られる病気でありながら、本態性振戦の発症原因はこれまでわかっていなかった。
ナトリウムイオンチャンネルNav1.6の欠失で起こると判明
研究グループは、細胞内で他のタンパク質の輸送に関わるタンパク質(クラスIIARFタンパク質)を作ることができないマウスを作製した。このマウスは寝ているときには異常がないが、起きて活動しているときに、常に体を震わせることが明らかになった。小脳は、スムーズな運動を実現する重要な役割を果たしており、小脳皮質から唯一外に信号を送り出す神経細胞であるプルキンエ細胞がその中心的な役割を果たしている。そこで、今回作製したマウスの脳の活動を詳細に調べたところ、プルキンエ細胞が発生する電気信号(活動電位)が弱まっているという異常を発見した。また、プルキンエ細胞の軸索が伸び始める部分(軸索の起始部)において、ナトリウムイオンチャンネル(細胞外からナトリウムイオンを取り込むタンパク質)のひとつであるNav1.6が失われていることがわかった。これにより、ナトリウムイオンチャンネルの消失が、プルキンエ細胞の電気信号が弱まっている原因であると考察された。一方、マウス作製の際に働かないようにしたタンパク質(クラスIIARFタンパク質)を、このマウスのプルキンエ細胞のみで再び働くようにしたところ、マウスの震えが少なくなり、症状が改善した。
以上のことから、身体の震えは、小脳のプルキンエ細胞の軸索起始部でナトリウムイオンチャンネルのNav1.6が失われることで起こることがわかった。研究グループは今後、老化とナトリウムイオンチャンネルのNav1.6消失の関連性について調べることで、症状の根本的な治療法の開発を試みるとしている。また、アルコール依存症や緊張時に体が震えることについても、このナトリウムイオンチャンネルが働かなくなっている可能性があるため、明らかにしていきたいと述べている。
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・群馬大学 プレスリリース