乾癬病変で高発現の「IκB-ζ」とTYK2の関係を解析
北海道大学は6月11日、炎症性皮膚疾患の病態形成に関わるタンパク質であるIκB-ζ(アイカッパビーゼータ)が、表皮角化細胞内で発現誘導される分子機構にリン酸化酵素であるTYK2が役割をもつこと、また、TYK2は炎症性サイトカインのインターロイキン17(IL-17)が細胞に及ぼす効果(mRNA安定化効果)と協調することで IκB-ζ発現誘導を担うことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の室本竜太講師、松田正教授らの研究グループによるもの。研究成果は「ImmunoHorizons」に掲載されている。
画像はリリースより
乾癬は、皮膚が赤く腫れ、その表面から白い皮がフケのように剥がれ落ちる、難治性で慢性の炎症性皮膚疾患。近年、Tリンパ球等の免疫細胞が産生する炎症性サイトカインであるIL-17が、乾癬の皮膚炎症反応において重要な役割を果たしていることが報告され、実際、IL-17の機能を阻害する抗体は臨床現場で有効な治療薬として使用されている。IL-17の作用を受けた皮膚の角化細胞や乾癬患者の病変部皮膚では、IκB-ζと呼ばれるタンパク質の高発現が見られることが報告されている。研究グループは、これまでにIκB-ζが乾癬病変部で発現が増加する遺伝子群の発現に役割を持つことを見出していた。しかし、IκB-ζそのものの発現制御機構は明らかとなっておらず、その解明は、IL-17が作用する際の分子機構の理解に役立つと考えられていた。また、これまでの研究でJAKファミリーのリン酸化酵素であるTYK2が、乾癬のマウスモデル病態に役割を持つことも見出していたが、IL-17による角化細胞の活性化における TYK2 の役割は不明だった。そこで今回、 IκB-ζ 発現誘導における TYK2 の寄与を明らかにすることにも着目し、検証を行った。
TYK2はIκB-ζ mRNA合成に寄与、IL-17は転写後のmRNA安定化に寄与
研究グループは、乾癬のマウスモデルであるイミキモド誘発皮膚炎の実験を行い、正常マウスと TYK2 遺伝子欠損マウスの差異を検討した。その結果、誘導した皮膚炎は、正常マウスに比べてTYK2欠損マウスで抑制されていた。また、正常マウスの炎症組織では、IκB-ζを含むIL-17標的遺伝子の発現量の増加が観察されたが、TYK2 欠損マウスでは増加が抑制されていた。さらに、ヒト由来の角化細胞をIL-17で刺激した際に増加するIκB-ζの量について、遺伝子ノックダウンの手法を用いてTYK2の関与を検討したところ、TYK2の発現量を抑制させた角化細胞では、IL-17により誘導されるIκB-ζ発現量が減少していた。これらから、TYK2 がIκB-ζ発現増加に役割をもつことが示唆された。
続いて、転写促進シグナルとしてTYK2が役割を持つかどうかを調べるため、IκB-ζ遺伝子のレポーターアッセイを実施した。その結果、TYK2はIκB-ζ遺伝子の転写活性化を起こすシグナル伝達に寄与するものの、IL-17はそれに寄与しないことがわかった。さらに詳細な解析により、TYK2によってリン酸化を受けることで活性化される転写因子のSTAT3がこの過程で役割を持つことと、TYK2による STAT3リン酸化を阻害できる低分子化合物(Cerdulatinib、Pyridone-6、Tofacitinib)がIL-17刺激時のIκB-ζ増加を阻害できることも判明。また、IκB-ζの発現誘導が起こる過程において、TYK2は転写活性化(mRNA合成)に寄与し、IL-17は転写後のmRNA安定化にそれぞれ寄与することが明らかになった。
乾癬の新規治療法開発への貢献に期待
次に、IL-17シグナルがIκB-ζ mRNAを安定化させる分子機構を解析した。その結果、RNA分解酵素であるRegnase-1のノックダウンを行うと、特にIL-17の作用を受けていない(平常時の)細胞内において、IκB-ζ mRNA 量の増加を認めた。一方、IL-17処理下では、コントロールとRegnase-1低下群との間でIκB-ζ mRNA発現量に差はみられなかった。この結果は、Regnase-1 による IκB-ζ mRNA 分解は特に平常時の細胞内で起こっていること、また、IL-17にはそれを解除する作用があることを示唆している。さらに、IL-17の作用発揮に必須の役割を持つことが知られているタンパク質のACT1を遺伝子ノックダウンにより抑制すると、IL-17によるmRNA 安定化反応は観察されなくなった。これらの結果から、IL-17によるシグナル伝達は、mRNA分解機構に拮抗してmRNA 安定化を引き起こし、IL-17にはACT1を介してRegnase-1の機能を抑制する作用があることが示唆された。
今回の研究により、リン酸化酵素であるTYK2を阻害する化合物や、IL-17-ACT1経路が担うmRNA安定化反応を阻害する化合物は、いずれも皮膚の角化細胞を標的としてIL-17誘導性炎症を抑制する手段になり得ることが示された。「将来的に、乾癬治療における新たな選択肢の開発に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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