加齢や疾患に伴うミトコンドリア障害で、筋の萎縮や崩壊が発生
東北大学は6月11日、ミトコンドリアの働きの低下による筋細胞の崩壊メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の東谷篤志教授らの研究グループが、英ノッティンガム大学ならびにエクセター大学と共同で行ったもの。研究成果は、米実験生物学会連合誌「FASEB Journal」に掲載されている。
画像はリリースより
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生において中心的な役割を担う細胞小器官であり、筋肉の活動や発達、維持において不可欠である。しかし、加齢や疾患に伴うミトコンドリアの障害で筋の萎縮や崩壊が生じることはよく知られている一方、その詳細なメカニズムについては解明されていなかった。
筋細胞では、エネルギーとカルシウムイオンの調節を通して、筋原線維の収縮や弛緩を行う。筋細胞内のカルシウムイオンは、筋小胞体からリアノジン受容体を介して細胞質に放出され、その濃度上昇に伴って筋原線維が収縮し、再びSERCAカルシウムイオンポンプで筋小胞体に戻され、濃度低下に伴って筋原線維が弛緩する。この繰り返しが、筋の活動につながっている。
解明された分解経路が、筋萎縮を伴う疾患の予防・治療法につながる可能性
今回、モデル生物の1つである線虫(C.エレガンス)を用いて、ミトコンドリア活性を阻害する薬剤を投与した際に生じる急速な筋細胞の崩壊メカニズムについて、詳細な解析を実施。その結果、(1)ミトコンドリア活性の低下に伴い、筋細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、(2)カルシウム依存性のエンドプロテアーゼの1つであるフーリンの活性化が生じ、(3)細胞外マトリックスメタロプロテアーゼがフーリンにより活性化され、(4)細胞外マトリックス成分であるコラーゲンの分解が促進され、これら一連の反応により、最終的な筋細胞の崩壊に至ることを明らかにした。すなわち、筋小胞体からのカルシウムイオンの放出を抑えること、フーリンの酵素活性を薬剤などで抑えること、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を同様に薬剤などで抑えること、これらいずれの方法においても、ミトコンドリア障害から生じる急速な筋萎縮に対して抑制効果があることが確かめられた。
線虫の筋ジストロフィー疾患モデルにおいても、これまでは筋細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇することは知られていたが、筋崩壊の進行メカニズムについては不明だった。しかし今回、ミトコンドリア障害に伴う筋崩壊に有効だったいずれの方法でも、線虫の疾患モデルにみられる筋崩壊の進行を抑制できることが確認され、同様の分解経路が筋ジストロフィー疾患においても生じている可能性が示された。
研究グループは、「これらの研究成果は、今後ヒトにおいて、加齢やさまざまな疾患に伴う筋萎縮のメカニズムの解明に寄与し、筋萎縮をはじめとするロコモティブシンドロームの予防・治療法の開発等につながる可能性が示唆される」と、述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース