脳が正しくはたらくために必要な、神経幹細胞のスイッチについて研究
金沢大学は6月11日、乳児の健康な脳が形成される際に重要な細胞の運命が決まる仕組みを世界に先駆けて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授の研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Neuroscience」に掲載されている。
画像はリリースより
脳の中には、さまざまな情報の処理を行う「神経細胞」と、主に神経細胞の働きを助ける「星状膠細胞」がある。脳が正しく働くためには、脳が形成される際に、適切な数の神経細胞と星状膠細胞が「神経幹細胞」によって作られることが必要で、脳が正しく機能するために欠かせない。
そのため、神経幹細胞が、神経細胞から星状膠細胞へ切り替えるスイッチの仕組みを理解することが、健康な脳の形成過程を明らかにするうえで非常に重要と考えられている。
FGF神経細胞と星状膠細胞のバランスをFGFシグナルが制御
研究グループは今回、マウスの脳を用いて線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナルと呼ばれる遺伝子経路が、神経幹細胞が作り出す2種類の脳細胞の運命を左右するスイッチの実体であることを明らかにした。
具体的には、FGFを脳内に導入することによってFGFシグナルを増強すると、本来は神経細胞になるべき細胞が星状膠細胞に変化することがわかった。反対に、FGFシグナルを抑制すると、星状膠細胞になるはずの細胞が神経細胞へと変化することが判明した。
今回の研究成果により、乳児の健全な脳が形成されるときに、調和のとれた正しい数の神経細胞と星状膠細胞を作るための、新しく精巧な仕組みが明らかとなった。研究グループは、「脳内において、神経幹細胞から神経細胞と星状膠細胞という全く異なる細胞が作り出される際に、その運命がたった1つのシグナルで決められていることを発見し、実体を明らかにすることに成功した。今後、FGFシグナルの異常がどのような脳神経疾患につながるかを明らかにすることにより、神経細胞と星状膠細胞のバランス異常が引き起こす脳異常の病態解明が期待される」と、述べている。
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