これまで不明だった「ブドウ球菌」による嘔吐の理由
北里大学と弘前大学は6月5日、コモンマーモセットを用いて黄色ブドウ球菌による嘔吐型食中毒の発症メカニズムを解明したと発表した。この研究は、北里大学獣医学部の小野久弥講師、弘前大学大学院医学研究科の中根明夫特任教授らの共同研究チームによるもの。この研究に関する論文は、国際学術誌「PLOS Pathogens」に6月3日付で掲載された。
黄色ブドウ球菌による嘔吐型食中毒は古くから知られており、1930年に米国のDackらにより、この食中毒は黄色ブドウ球菌自体の感染によるのではなく、菌が食品中で作る毒素「ブドウ球菌エンテロトキシン」で起こることが明らかにされた。その後、この毒素については多数の種類があることや、 毒素性ショック症候群といった別の病態の原因になることも判明。一方で、ブドウ球菌エンテロトキシンは嘔吐活性を持つが、その嘔吐メカニズムは不明だった。また「ブドウ球菌エンテロトキシン」による嘔吐は、ヒトや霊長類で特に強くみられるため、霊長類を用いた研究が必要だった。
消化管の肥満細胞が放出したヒスタミンで嘔吐
今回、小型の霊長類であるコモンマーモセットにブドウ球菌エンテロトキシンを投与したところ、嘔吐を確認。これにより、コモンマーモセットを嘔吐モデル動物として確立した。続いて嘔吐メカニズムを解明するために、コモンマーモセットの消化管においてブドウ球菌エンテロトキシンと結合する細胞を探した。その結果、ブドウ球菌エンテロトキシンが粘膜下組織の肥満細胞を標的としていることが明らかになった。さらに、ブドウ球菌エンテロトキシンの作用により肥満細胞が脱顆粒を起こしていたため、肥満細胞が放出する物質が嘔吐に関わると考えられた。そこで、消化管組織にブドウ球菌エンテロトキシンを作用させたところ、ヒスタミンの放出を確認。さらに、脱顆粒やヒスタミンの働きを阻害する薬剤をコモンマーモセットに投与すると、ブドウ球菌エンテロトキシンによる嘔吐が抑制されることが明らかになった。以上の結果から、食品とともに経口摂取されたブドウ球菌エンテロトキシンは、消化管の肥満細胞に結合し、脱顆粒を引き起こすことでヒスタミンを放出させ、このヒスタミンにより嘔吐が引き起こされることが明らかになった。
研究グループは今後、ブドウ球菌エンテロトキシンが脱顆粒を引き起こす仕組みを明らかにすることで肥満細胞の新たな機能を見出し、腸管における種々の疾病への関与を解明するとしている。また、「コモンマーモセット嘔吐モデルは黄色ブドウ球菌食中毒に限らず多くの嘔吐関連疾患・薬剤副作用の解明に利用することができる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北里大学 プレスリリース