■ベンチャー設立も視野
2月に開かれた大阪府主催の創薬シーズ事業化コンペティションでは、大学や研究機関の研究者7人が発表した創薬関連研究の中から、ベンチャーキャピタル担当者らの審査を経て、鎌田氏のグループの研究が最優秀賞に選ばれた。標的分子の結合部位に焦点を当てて抗体を創製する技術が審査員の注目を集めた。
生体内では多種類の抗体が産生され、膜蛋白質などの標的分子に結合して効果を発揮する。標的分子上での抗体の結合部位は1カ所に限定されず、一つの標的分子に対して複数存在する。結合部位によってそれぞれの抗体の効果は大きく異なるが、こうした実態はあまり解明されていないのが現状だ。
そこに鎌田氏らは着目した。標的分子上の結合部位を意識せず、標的への親和性が高い抗体を探し出す従来の創薬アプローチでは、有望な抗体を見逃してしまう可能性がある。これまでは、標的分子に結合する抗体を探索し、いち早く医薬品の承認を得ることが重要な戦略だったが、今後抗体医薬が市場に出揃ってくると、従来の戦略ではいずれ行き詰まってしまう。
鎌田氏らは、この課題を解決するために、標的分子上の抗体結合部位の数や場所を網羅的に明らかにすることを重視し、各部位に結合する抗体群を作製する方法を構築した。
具体的には、まず標的分子の持つ構造情報をもとに抗体結合部位の数を推定。様々な免疫手法を組み合わせることで、多様な抗体を誘導し、標的分子上に幅広く結合する抗体群を作製する。こうして作製した数百種類の抗体群の中から、それぞれの結合部位に高い親和性を持つ抗体を複数選別し、それらを抗体のセットとしてパネル化する技術を構築した。
このような技術は時間と手間が求められ、標的に幅広く結合する抗体群を誘導するにも独自のノウハウが必要となるため、製薬企業や他の研究機関ではほとんど試されることがなかった方法である。
しかし、実際に行ってみると、臨床応用されている抗体より優れた活性を持つ抗体が存在することが判明。今まで取りこぼしていた有用な機能を持つ抗体を効率良く見つけ出せることが明らかになった。
標的分子として有望視されながら、用いた抗体の効果が弱かったために、臨床開発を中断した事例は数多く存在する。鎌田氏らが確立した方法を活用すれば、開発中断に至ったような標的分子にも有用な抗体を作製できる可能性がある。
今後、製薬企業との共同研究を推進するほか、確立した技術や方法をもとに、その一部を切り出してベンチャーを立ち上げることも視野にある。既に癌で特異的に発現する膜蛋白質に対する有望な抗体を複数作製しており、抗体の実用化をベンチャーで推進したり、標的分子上の抗体結合部位に焦点を当て、抗体を作製する方法をベンチャーで事業化するなど、いくつかの方向性を検討しているところだ。