■法令遵守の規制が壁に
治験をめぐっては、決められた期間に被験者を集積できなかったり、治験に参加した被験者も途中で脱落するケースが少なくない。企業目線で治験の手続きや治験実施方法を効率化させるのみならず、患者の声を企業活動に生かしていく必要性から、国内では2017年頃から患者が治験に参加しやすい環境を目指す取り組みが始まった。
グラクソ・スミスクライン(GSK)は、英本社が公開している臨床試験結果を患者が理解できる形で日本語訳し、ホームページ上で公開を始めている。今年は解析を完了した第III相試験、製造販売後臨床試験の結果を公開し、本格稼働していく。
ヤンセンファーマは、海外で展開している製薬企業と患者がやり取りを行える治験ポータルサイトについて、国内導入を検討している。海外では、同社が実施中、実施予定の治験情報を提供するほか、患者が治験のプロトコルについて意見を言える場になっている。日本では規制当局と相談し、段階的な運用を目指していく予定である。
中外製薬は、臨床試験で開発薬剤の有効性・安全性評価だけではなく、患者目線に立った独自の評価項目を導入し、薬剤の価値を検討している。各疾患で患者が抱えるアンメットメディカルニーズを探索し、有効性評価項目として設定することで、薬剤で解決できたかを評価する。上市後に患者が薬剤を選ぶ一つの基準にしていきたい考えだ。
日本イーライリリーは、医療機関の待合室に人型ロボットの「ペッパー」を設置し、治験への関心が低い層に啓発する取り組みを開始した。実際、ペッパーによる情報提供から治験参加の同意取得や登録へとつながった例もあるという。今後、院内でのポスター掲示と合わせて、ペッパーを治験啓発で活用していくアプローチを標準化する。
ファイザーは、被験者向けに治験参加の同意取得を電子的に行う「eコンセント」を昨年下半期から抗癌剤2剤の治験で導入した。今後は、疾患を問わずに展開していく方針だ。今年からは、被験者の自宅に治験薬を直接配送し、検体を集荷する日本法人独自の取り組みも開始している。
ただ、一部企業で患者参画型治験の実現に向けた取り組みが始まっているとはいえ、日本製薬工業協会の会員企業で活動を行っているのは半数に満たず、海外と大きな差が生じているのが現状だ。
国内では海外とは異なり、製薬企業から患者への情報提供を制限する法規制が存在し、患者の治験に対する要望を収集する機会が限られ、患者団体との協働でも明確なルールが存在していない。製薬協では今年度、国内での具体的な活動事例を集めたガイドブックを作成し、今後活動を始める企業の参考にしていく。