免疫チェックポイント阻害薬治療の有用なバイオマーカーを探索
京都府立医科大学は5月27日、進行期非小細胞肺がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測にサルコペニアが関連している可能性を示したことを発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器内科学教室内野順治准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Journal of Clinical Medicine」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
サルコペニアとは骨格筋量が減少した状態を指す。主に加齢によって引き起こされるが、腫瘍の進行に伴う悪液質によっても引き起こされ、それらも二次性としてサルコペニアの中に含まれる。サルコペニアの評価には「体重変化」「臨床症状」「生化学的検査を含む身体的所見」が臨床指標として使用されてきたが、近年ではCT画像やMRI断層画像が筋肉量の減少を計算する方法として使用されており、客観性と正確性に関して高く評価されている。
免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)は、その出現以来大きな注目を集め、予後を大きく改善する可能性があると期待されていた。しかし実際は、ICIによる治療が奏効する割合は全体の20~30%で、いまだ有用なバイオマーカーを探索しているという現状がある。
サルコペニア評価が免疫治療の効果予測の同定に貢献する可能性
研究グループは、近年、Eastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が不良な患者と、ICIの無増悪生存期間の短縮が関連しているとの報告が複数あることからサルコペニアとICI治療に着目。骨格筋全体を反映する指標とされるCTでの第3腰椎の大腰筋面積を用いて、初診時とICI投与前の間の骨格筋変化を評価し、それがICI治療におけるバイオマーカーとして使用できるかどうかを調査した。
同研究は、同大附属病院にて二次治療以降に免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブおよびペンブロリズマブ)を使用した進行期もしくは術後再発の非小細胞肺がん患者を対象とした後方視的研究。適格基準を満たした38名の患者(男性26名、女性12名)を対象に、ICI投与前のCTで大腰筋面積が初診時と比較して10%以上減少した患者をサルコペニア群と定義し、サルコペニア群と非サルコペニア群に分け、ICIの治療効果を評価した。その結果、全奏効率は有意にサルコペニア群が非サルコペニア群と比較して低値だった(サルコペニア群0%対非サルコペニア群41%[p=0.0154])。また、病勢制御率でも同様に、サルコペニア群のほうが有意に低い結果となった(サルコペニア群24% 対 58%[p = 0.0458])。
さらに、サルコペニア群と非サルコペニア群の無増悪生存期間を比較した結果でも、サルコペニア群のほうが、非サルコペニア群よりも有意に短縮していた(中央値47日[95%CI:23–76]対204日[95%CI:59 – NA] [p=0.00186])。サルコペニア自体がPSの交絡因子になり得るため、良好なPS群にのみ焦点を合わせ、サルコペニア群と非サルコペニア群との無増悪生存期間を評価したが、こちらもサルコペニア群のほうが有意に短縮していた(中央値45日[95%CI:18-NA]対230日[95%CI:59-NA] [p=0.00404])。
進行期肺がんに対する内科的治療で免疫療法を選択して効果が得られなかった場合、全身状態の悪化で次の治療に殺細胞性抗がん剤が使用できなくなるというケースはしばしば遭遇する。現時点では、免疫療法の治療効果を、生検組織のPD-L1発現率だけで予測・選択しているが、臨床の場面では限界があり、新たな効果予測が必要とされている。研究グループは、「本研究成果は、サルコペニア評価で免疫療法の効果が期待できる肺がん患者をさらに同定できる可能性を示しており、肺がん治療のさらなる発展が期待される」と、述べている。
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