これまでに多能性幹細胞を用いて卵子を作製する手法を開発
九州大学は5月28日、マウスの多能性幹細胞であるES細胞から、これまで誘導することができなかった休止状態の卵母細胞を、体外培養下で作製することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の島本走学術研究員と林克彦教授の研究グループによるもの。研究成果は「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
これまでに研究グループは、多能性幹細胞を用いて卵子を作製する手法を開発していたが、雌マウスの卵巣で長期間に渡り生殖能力を担保するために貯蔵されている、休止状態の卵母細胞は誘導できていなかった。
Foxo3発現や酸化ストレス再現で休止状態の卵母細胞作製に成功
今回の研究では、人工的に作製した卵子と生体マウスの卵子の形成過程を詳細に比較することで、体外培養系では発現量が足りない遺伝子や、不足している環境因子を見つけ出した。こうして見出した「Foxo3」という遺伝子の発現誘導や、生体内で発生していると考えられる酸化ストレスを、低酸素培養によって再現し、体外培養系をマウスの卵巣内の環境により近づけることで、休止状態の卵母細胞を作製することに成功した。さらに、誘導された休止状態の卵子では、低酸素で働くHIF遺伝子が機能していることが明らかとなった。
今回の研究成果により、休止状態の卵母細胞を培養下で作製できるようになったことから、「ヒトを含めた哺乳類の雌における繁殖能力の長期的な維持メカニズムといった、生物学的に重要な課題にアプローチしやすくなったと同時に、早期閉経などの不妊原因の究明や治療方法の開発への貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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