ビフィドバクテリウム菌は重度の小児う蝕患者から多く検出
東北大学は5月29日、重度の小児う蝕患者から特徴的に検出されることが報告されている「ビフィドバクテリウム菌」のう蝕誘発機能の一端について明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科口腔生化学分野の高橋信博教授、安彦友希助教および同研究科小児発達歯科学分野の馬目歩実歯科医師らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Frontiers in Microbiology」に5月16日付でオンライン掲載された。
画像はリリースより
ビフィドバクテリウム菌(ビフィズス菌)は、主に腸内に生息し、腸内環境を酸性化することで良好な腸内環境を作る有用菌として知られている。近年の研究により、ビフィドバクテリウム菌が口腔内、特に重度の小児う蝕患者から多く検出されることが明らかになってきていた。今回研究グループは、ビフィドバクテリウム菌がなぜ小児のう蝕患者から多く検出されるのか、どのような細菌であるのか、ということについて代表的なう蝕関連細菌であるストレプトコッカス・ミュータンス菌と比較検討した。
ビフィドバクテリウム菌は乳酸ではなく「酢酸」で脱灰
その結果、ビフィドバクテリウム菌はストレプトコッカス・ミュータンス菌とは異なるう蝕誘発機序があることが判明した。ビフィドバクテリウム菌は糖をエサにして、代謝産物として酢酸と乳酸を4:1の割合で菌体外に排出する。口腔内では、この排出される酸により歯が溶けること(脱灰)で、う蝕が生じるとわかった。通常は、唾液の緩衝作用(酸性pHに傾いた環境を中性pHに戻す作用)が働くが、糖の頻回摂取、唾液の分泌不足など、さまざまな原因で緩衝作用が追い付かない場合は、脱灰が進み、う蝕が進行してしまうという。
ビフィドバクテリウム菌もストレプトコッカス・ミュータンス菌も糖から酸を産生し、歯の脱灰に十分なpH低下を引き起こすが、ミュータンス菌が主に乳酸を産生するのに対し、ビフィドバクテリウム菌は主に酢酸を産生する。乳酸と酢酸は同じ酸だが、pHの低い酸性環境下では、酢酸の方が歯の内部に浸透しやすいことが報告されており、歯を脱灰し、う蝕の進行を早める可能性が高くなると、研究グループは考察している。
特殊な糖代謝経路「ビフィドシャント」でフッ化物の効果を回避
う蝕の予防法の1つとして、フッ化物の利用が挙げられている。フッ化物の主な利点は、脱灰した歯の成分(カルシウムやリン)を効率的に歯に戻すこと(再石灰化)だが、同時に細菌の糖代謝に関わる代謝酵素の働きを阻害し、酸の排出を抑える働きもある。
これまでう蝕の研究は、主に砂糖を代謝し乳酸を産生する細菌(特にミュータンス菌)を対象に行われてきた。そこでフッ化物の効果を両細菌で比較検討したところ、ミュータンス菌は、フッ化物により酸産生が抑えられたが、ビフィドバクテリウム菌には同じ濃度のフッ化物では効果がなく、さらに高濃度のフッ化物を使用しても、酸産生を完全に抑えることができなかった。この原因を追究したところ、特殊な糖代謝経路「ビフィドシャント」によってフッ化物の阻害効果を回避していると判明。つまりビフィドシャントにより、酸産生能力を維持し、これがう蝕の発生や進行に関与することが明らかになった。
また、ビフィドバクテリウム菌はブドウ糖(グルコース)よりも乳糖(ラクトース)をエサにした方が、糖代謝の効率を促進し、より多くの酸を産生することもわかった。小児期は乳糖を多く含む母乳や牛乳をよく口にしていることから、乳児のう蝕予防法について、再考する必要があるという。「今回の研究によって、乳糖を代謝し酢酸を産生する細菌による「新たなう蝕病因論」が展開されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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