正確な診断が困難で標準的治療法もない「混合型肝がん」
理化学研究所は5月24日、特殊な「混合型肝がん」を主とする肝がんの統合的ゲノム解析を行い、肝がんの新たな分子分類を確立し、混合型肝がんの遺伝的特徴と診断マーカーを発見したと発表した。この研究は、同生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの藤田征志上級研究員、中川英刀チームリーダーらの国際共同研究グループによるもの。研究成果は「Cancer Cell」のオンライン版に5月23日付で掲載された。
画像はリリースより
肝がんの主な原因は、肝炎ウイルスの持続感染で、世界中の肝がんの約75%は、B型/C型肝炎ウイルスの感染によるものと推定されている。肝炎ウイルスに感染し、慢性肝炎発症から肝硬変を経ると、高い確率で肝がんを発症する。原発性肝がんの90%以上は「肝細胞がん(HCC)」。次いで、肝臓の中に発生する胆管がんである「肝内胆管がん(ICC)」が5~10%、HCCとICCの組織像が複雑に混在した腫瘍が見られる「混合型肝がん」が1~2%存在する。ICCおよび混合型肝がんは、HCCに比べて悪性度が高い。特に混合型肝がんは最も予後が悪いのが特徴で、標準的治療法もなく、また、ICC細胞とHCC細胞が複雑に混じっているため、切除前の画像診断や生検による病理診断での正確な診断は困難だった。
混合型肝がんの半数でがん抑制遺伝子TP53に変異
研究グループは、日本と中国、シンガポールにおいて合計130例のまれな混合型肝がんの手術凍結標本を収集し、それらのDNAとRNAから全ゲノムシーケンス解析、全エクソーム解析、RNAシーケンス解析を実施。得られたデータと、これまで理研が解析してきた多数のHCCおよびICCのゲノム解析結果とを比較検討した。また、混合型肝がんに含まれるHCC細胞像の部分とICC細胞像の部分を顕微鏡下において分離、さらには単細胞レベルにまで分離して、網羅的ゲノム解析を行い、混合型肝がんの細胞由来や進化の過程の推定を試みた。
その結果、混合型肝がんでは、がん抑制遺伝子TP53の変異がHCCやICCと比べて有意に多く、約50%の症例で確認された(HCCとICCは、20~35%)。これは、混合型肝がんの発生において、TP53の変異が中心的な役割をしていることを示すものだという。一方で、HCCでの発がんで最も重要なTERT遺伝子のプロモーターやCTNNB1遺伝子の変異は、それぞれ23%、6%しか確認できず、HCCの変異遺伝子との重複はわずかだった。
肝がん全般について分化度に基づき4つに分類
混合型肝がんの病理学的検討では、HCC細胞とICC細胞の境目がはっきりする腫瘍(Combined type)と、境目がはっきりせずHCC細胞とICC細胞が複雑に混ざっている腫瘍(Mixed type)に分類される(Allen & Lisa分類)。研究グループは、105例の混合型肝がんおよびHCCとICCを含む合計367例の原発性肝がんについて、それらのRNA発現プロファイルを統合・解析した。
肝がんの分化機構に着目して、「胆管細胞への分化型(P1)」「低分化型(P2)」「肝細胞への分化型(P3)」「肝細胞への高分化型(P4)」の4つに分類した結果、混合型肝がんのCombined typeとICCはP1に属し、混合型肝がんのMixed typeと形態上肝細胞への分化度が低いHCC、TP53変異(+)肝がんはP2に属していると判明。P2では、ICCで観察されるIDH1遺伝子やKRAS遺伝子の変異が見られなかった。また、混合型肝がんが属し、分化機構の異常があると考えられるP1とP2の予後はP3とP4に比べて有意に不良であり、悪性度が高いことがわかった。
TP53変異やNestin発現、混合型肝がんの診断マーカーに
次に、混合型肝がんのCombined typeとMixed typeについて、それぞれのHCC細胞とICC細胞を顕微鏡下で分離した後、ゲノム解析を実施。その結果、Combined typeは同じP1に属するICCと似た特性、Mixed typeはHCCと似た特性を持っており、それぞれ分子特性が異なるとわかった。さらに、単一細胞解析の結果では、Combined typeとMixed typeはともに単一細胞由来とわかった一方で、少数ではあるが、複数の細胞からHCCとICCが別々に発生し、それらが合体して混合型肝がんになったものもあった。
混合型肝がんで変異が多く観察されたTP53にはさまざまな機能があり、細胞の分化可塑性にも関わることが報告されていることから、TP53が変異すると、脱分化からさまざまな形態の組織へ再分化する可能性がある。これに関し、免疫組織染色解析で調べた結果、混合型肝がんではp53(TP53にコードされるタンパク質)の下流で細胞の分化可塑性、脱分化に関与するNestinタンパク質が高発現しており、Nestinの発現は予後不良とも関連していたことから、混合型肝がんの診断マーカーになる可能性が示された。今回の研究成果は、「肝がんの診断精度を向上させ、個別化治療やがんゲノム医療に貢献すると期待できる」と、研究グループは述べている。
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・理化学研究所(理研) プレスリリース