拒絶反応を抑えつつブタを長期生存させる
慶應義塾大学は5月22日、外科的手法で免疫不全状態が調整できるブタモデルの開発を成功させたと発表した。この研究は、同大学医学部の小林英司特任教授らによるもの。さらに、佐賀大学医学部の伊藤学助教、中山功一教授らが、この技術により、バイオ3Dプリンタを用いてつくり上げたヒト細胞由来の人工血管の有効性・安全性を検証した。研究成果は、総合科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に5月21日付で公開された。
ヒト細胞由来の再生医療等製品の有効性や安全性の検証には、マウスやラットに比して、ブタのようなヒトと大きさが近い実験動物を用いた前臨床試験(移植試験)が望まれていた。しかしヒト細胞由来製品をブタに移植した際に生じる異種免疫反応の制御が難しく、免疫抑制剤を用いても人間サイズの臓器や組織を短期間しか観察できなかった。また、ブタでも遺伝子操作で免疫不全状態にすることが可能となったが、その場合、ブタ自体が長期生存できない。したがって、ブタでの前臨床試験は困難なものと考えられてきた。
ヒト細胞製人工血管の有効性、安全性検証に成功
今回、研究グループは、外科的手法で免疫不全状態が調整できるブタモデルの開発に成功。このモデルは、従来行われる免疫抑制剤の投与に加え、免疫細胞の産生・成熟に重要な臓器である胸腺と脾臓を同時に摘出することで、ヒト組織の生着に成功したもの。
さらに同技術を用いて、バイオ3Dプリンタでつくり上げたヒト細胞由来の人工血管の頸動脈静脈にバイパス移植を行い、最長20週の人工血管の開存と血管組織の再生の確認に成功。これにより、細胞製人工血管の有効性・安全性を確認した。「今回作成に成功した免疫不全ブタモデルは、ヒト細胞由来再生医療等製品の有効性、安全性を検証でき、さらにブタ体内でヒトの臓器をつくり上げる研究にも役立つと期待される」と、研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース