がんの転移や抗がん剤の耐性獲得を促進するHGF
金沢大学は5月18日、がん細胞の転移や抗がん剤耐性を促進する肝細胞増殖因子(HGF)と特異的に結合する環状ペプチド「HiP-8」を発見し、HiP-8がHGFの作用を阻害すること、およびHiP-8により体内のHGFが豊富ながん組織を可視化できることを実証したと発表した。この研究は、同大がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所/新学術創成研究機構の酒井克也助教、柴田幹大准教授、松本邦夫教授、東京大学大学院理学系研究科の菅裕明教授、理化学研究所生命機能科学研究センターの向井英史ユニットリーダー、渡辺恭良チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Nature Chemical Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
HGFは細胞外に分泌されるタンパク質であり、その受容体タンパク質METと結合することで、組織の成長・再生を促す。ところが、さまざまながん組織においては、HGFががん細胞に作用して、がんの転移や抗がん剤に対する耐性獲得を促進する。そのため、HGF-METの結合を阻害する分子の開発が求められている。
HGF特異的に結合・阻害するHiP-8、がん治療や画像診断への応用に期待
今回研究グループは、RaPID法を用いて、HGFに結合する環状ペプチド「HiP-8」を新たに取得。RaPID法は、Random Peptide Integrated Discoveryの略で、今回の共同研究者の一人である東大の菅教授が確立した手法。この手法により、標的となる生体分子(主にタンパク質)に高い特異性と親和性で結合できる環状ペプチドを高効率かつ敏速にスクリーニング・取得できる。
HiP-8は、極めて高い特異性でHGFに結合することに加え、解析の結果、HGFの作用を阻害することも明らかとなった。また、HiP-8の作用機作について高速原子間力顕微鏡による観察を行った結果、HiP-8がHGFに結合することでHGFのダイナミックな形状変化を強く阻害する様子を可視化することにも成功。さらに、放射性同位元素で標識したHiP-8をがんモデルマウスに投与することで、生体内のHGFが豊富ながん組織をPET(ポジトロン断層法)イメージングにより可視化できることを実証した。「これらの研究成果は、転移性の高いがんや抗がん剤が効き難いがんの治療や画像診断に活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・金沢大学 研究トピック