100人に1人以上という高頻度で出現するASD
浜松医科大学は5月14日、自閉スペクトラム症(ASD)の表情の特徴がオキシトシンの投与で改善すること、さらにこの改善効果は時間と共に変化することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大精神医学講座の山末英典教授が、東京大学大学院医学系研究科の大和田啓峰医師らと共同で行ったもの。研究成果は「Brain」に掲載されている。
画像はリリースより
ASDは100人に1人以上の割合で出現する頻度の高い発達障害。社会的コミュニケーション障害と常同行動・限定的興味という中核症状は、2~3歳で明らかになり一生涯続くが、これらの中核症状に対して有効な治療薬はなく、その医療上の必要性は世界的に大きなものとなっている。
研究グループはこれまでに、ASDの中核症状に対する治療薬の候補として、オキシトシン経鼻剤の有効性や安全性を検討してきた。欧米でも行われてきた研究と山末教授らの研究を統合してみると、オキシトシンの社会的コミュニケーションの障害への効果は、単回投与では有効だったと一貫して報告されている一方、反復投与では、効果がなかった、あるいは山末教授らの研究のように、副次評価項目で効果を示したものの、主要評価項目に対しては有効性がみられなかったなどと報告されており、結果が異なっている。この結果が食い違う理由として、評価方法の客観性が不十分であること、反復投与することでオキシトシンの効果が減衰することなどが疑われていた。
時間の経過で弱まった改善効果が、6週間投与後2週間で再び強く
研究グループは、それぞれ20名(最終的な解析対象は18名)および106名(最終的な解析対象は103名)のASD患者が参加した、2つの別個の医師主導臨床試験の際に、6週間毎日2回のオキシトシンまたはプラセボを経鼻投与した前後で、対人場面におけるやりとりの様子を記録した動画のコマ毎に、表情の自動的な定量解析を実施。なお、同解析は、表情解析の客観性と定量性の高さを生かすことでオキシトシンの有効性を確認すること、表情解析の繰り返し使用できる特徴を活かして時間と共にオキシトシンの効果が減衰するか否かを明らかにすることを目的として行った。
オキシトシンを6週間投与すると、別々に行った2つの臨床試験で一貫して、プラセボ投与よりも、中立表情の変化のしにくさを表す数値が改善していた。さらに、2週間おきに効果を検討していた106名の臨床試験データで検討すると、このオキシトシンによる改善効果は、時間と共に変化し、改善効果は弱まっていったが、その一方で、6週間の投与を終了した後、さらに2週間経つと、改善効果は再び強くなっていた。その理由については、まだ明らかではないが、効果減衰のメカニズムから一旦解放されたことによる可能性もあるという。
オキシトシン経鼻剤の有効性を最大限にする投与法の発見に寄与する可能性
現在、山末教授は、帝人ファーマ社と共同して改良した新規オキシトシン経鼻剤をASD中核症状の治療薬として実用化するために、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学と共同で、医師主導治験を行っている。この医師主導治験では、今回示した反復投与による効果減衰を回避するための投与方法の改良をテストしている。
研究グループは、「本研究成果は、ASD中核症状に対する治療薬としてオキシトシン経鼻剤を開発する上で、有効性を最大限にする最適化した投与方法を見出すことにつながると期待される。また将来的には、反復投与による効果減弱を示したことで、この効果減弱が起きるメカニズムの解明の取り組みが活発になること、さらには改良した治療薬の開発につながることが期待される」と、述べている。
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・浜松医科大学 報道発表