神経の軸索の形態を支えるタンパク質「CRMP2」に着目
早稲田大学は5月14日、外力によって損傷した視神経の再生が、CRMP2(collapsin response mediator protein)というタンパク質のリン酸化を抑制することで促進されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大理工学術院の大島登志男教授、国立精神・神経医療研究センター神経研究所の荒木敏之部長、横浜市立大学大学院医学研究科の五嶋良郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
脳や脊髄などの中枢神経系は、一度ダメージを受けると再生が起こらず、これが神経疾患の治療を困難にしている。研究グループは、中枢神経系が損傷を受けた際に神経細胞側でリン酸化を受けるタンパク質「CRMP2」に着目。CRMP2は、微小管結合タンパク質のひとつで、非リン酸化状態で微小管に結合して微小管を安定化するとともに、その重合を促進することが知られている。研究グループはこれまでに、CRMP2がリン酸化を受けると微小管との結合能が失われ、結果として微小管が不安定化して軸索の退縮が起きることを報告している。このCRMP2のリン酸化による軸索の退縮は、軸索伸長を阻害する因子であるSema3Aで起き、CRMP2はこの反応を伝える。
中枢神経系が損傷を受けた際には、このSema3Aに加え、軸索を取り巻くミエリン由来のミエリン関連阻害因子と呼ばれる一連の阻害因子が軸索再生を抑制するが、軸索側ではCRMP2のリン酸化が起きている。研究グループは、そのリン酸化を抑制することで、神経再生を促せるのではないかと考えた。あわせて、同研究のために遺伝子改変でCRMP2のリン酸化を抑制したCRMP2KI (ノックイン)マウスの開発も行った。
緑内障などの疾患への有効性検証に期待
研究グループはまず、CRMP2KIマウスの視神経の損傷モデルを用いて、CRMP2のリン酸化抑制が損傷後の神経軸索再生に有効である可能性を検討した。その結果、神経再生が顕著に促進されていることを見出した。具体的には、「CRMP2KIマウスでは、視神経損傷直後に起きる微小管の脱重合が軽度」「CRMP2KIマウスでは網膜にある視神経の元になる細胞(網膜神経節細胞)の脱落が少ない」「視神経損傷4週間後に比較すると、CRMP2KIでは神経再生マーカーのGAP43の発現が増加」「視神経再生をトレーサーを用いて調べると、CRMP2KIでは神経再生が顕著に促進されていた」ということが判明した。
今回の研究成果により、CRMP2のリン酸化抑制が、中枢神経の一部である視神経の再生に有効であることを明らかになった。研究グループは、「今後、緑内障などの疾患に対しても、CRMP2のリン酸化抑制が病気の進行を抑制できるか遺伝子改変マウスを用いて検証するとともに、CRMP2のリン酸化を抑制する薬剤の同疾患への有効性を検証することが期待される」と、述べている。
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