サケやエビなどに含まれるカロテノイドで強い抗酸化作用をもつAX
筑波大学は5月14日、アスタキサンチン(Astaxanthin, AX)と低強度運動(ME)との併用が、海馬記憶能を相乗的に高めること、さらにその分子機構として海馬内のレプチン(Leptin, LEP)の関与を明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の征矢英昭教授、陸暲洙研究員らの研究グループが、米国のロックフェラー大学ならびに産業技術総合研究所と共同で行ったもの。研究成果は、米国科学アカデミー発行の総合科学誌「PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」で公開されている。
画像はリリースより
運動は、抗ストレスや抗うつ、抗不安効果のみならず、認知機能の向上にも奏功することが知られている。近年、運動に加え、抗酸化作用をもつ天然サプリメントの併用により、それぞれの単独効果の合算を上回る効果を発揮することが示されているが、その作用機序は明らかではなかった。
これまでに征矢教授らの研究グループは、成体海馬神経新生(Adult hippocampal neurogenesis, AHN)および、記憶能を向上させる至適運動条件として、低強度運動(Mild exercise, ME)の有効性を、動物とヒトで明らかにしてきた。さらに、サケやエビなどに多く含まれる赤橙色カロテノイドの一種であるアスタキサンチン(Astaxanthin, AX)摂取が、AHNおよび学習・記憶能を促進する効果も明らかにした。これらの結果をもとに、今回の研究ではMEによる海馬機能の向上効果が、AX摂取と併用することで増強するか否かの検討を行った。
脳由来のレプチンが、海馬機能を相乗的に高める効果に関与
研究グループは、マウスに4週間に渡りMEを実施させながらAXを食餌に混ぜて摂取させた。その結果、ME+AX群は、それぞれ単独群と比較して空間記憶能がより向上し、海馬の歯状回における細胞増殖の数と、新生成熟細胞数がさらに増加した。加えて、この効果はMEおよびAX摂取の単独がもたらす効果の合算を超える、相乗的なものであることが判明した。
さらに、この相乗効果を担う分子機構を解明するため、DNAマイクロアレイおよびバイオインフォマティクス解析(IPA)を用いて海馬内遺伝子発現を網羅的に検討したところ、神経栄養効果を持つLEPの遺伝子が関与していることが判明。LEPを欠損する遺伝性肥満マウス(ob/obマウス)と脳内へのLEP投与実験から、脂肪細胞由来ではなく、脳由来のLEPがこのような相乗効果の発現に貢献することを実証した。
近年、アルツハイマー病の最先端治療戦略として外因的なLEPが注目されている。ADにおける認知機能の低下に対し、MEとAX摂取の併用により海馬LEPを高めることができれば、神経新生を促進し、認知機能の改善に貢献すると想定される。研究グループは、「軽度認知症やアルツハイマー病などに起因する認知機能低下の予防・治療方略確立に向け、本研究で得られた知見は、運動と抗酸化成分摂取を併用する新たな介入プログラムの開発と、その実装に向けた重要なエビデンスになると考えられる」と、述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 プレスリリース