ゲノムの多様性から劣性遺伝性疾患の有病率を推定
東北大学は5月10日、日本人の全ゲノムリファレンスパネルを用いて、先天性代謝異常症について原因遺伝子の病的バリアントの保因者の頻度を初めて推定したと発表した。この研究は、同大東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)ゲノム解析部門の山口由美助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Human Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
劣性の遺伝性疾患において、保因者の集団中での頻度が疾患ごとにどの程度であるのかは、はっきりとはわかっていなかった。疾患ごとに、発症者の頻度(有病率)がわかっている場合、保因者の頻度は計算により推定可能だが、実際に劣性の遺伝性疾患の原因変異を持つ人が一般集団中にどれくらいの割合で存在するかについては、これまで解明が困難だった。
ToMMoでは、日本人の全ゲノム解読を大規模に行い、全ゲノムリファレンスパネル(現在3,552人で、3.5KJPNv2と呼ぶ)を構築して、ゲノムのバリアントの頻度情報を国内外に公開している。このパネルには、対象となった日本人において各バリアントがどれだけの頻度で存在するかのデータが含まれている。今回の研究では、3.5KJPNv2のデータを用いて、劣性の遺伝性疾患である、先天性代謝異常症疾患の原因バリアントの検出と保因者の頻度の推定を行い、各疾患の検査での陽性の人の割合に基づく既報の有病率との比較を行った。
ゲノムおよび有病率からの推定結果は「疾患ごとに異なる」
今回の研究では、フェニルケトン尿症、CPT2欠損症、シトリン欠損症など、原因遺伝子がわかっている17の劣性遺伝の先天性代謝異常症に着目。これら17の疾患の原因として知られている32の遺伝子を解析対象とした。3.5KJPNv2のバリアント全体について生物・医学的アノテーションとバリアント解釈を行い、32の遺伝子について、既報および推定された病的バリアント検出を4種類の方法で実施。検出された病的バリアントとそれらの頻度を用いて、保因者の頻度の推定を行った。一方で、過去の新生児スクリーニングで報告されている有病率から理論的に推定される保因者の頻度を得て、比較した。4種類の病的バリアントの検出法に基づくゲノム変異の保因者の頻度を推定したところ、フェニルケトン尿症やCPT2欠損症などの酵素欠損症では、有病率から推定された値と近い値を示した。つまり、ゲノムデータより有病率を推定することが可能であることが示唆された。
しかしながら、ゲノムデータと有病率から推定された保因者頻度の比較結果は、疾患ごとに異なっていた。違いや推定値のずれを生んだ要因として、研究グループは、ゲノムからの推定値の方が高ければ、バリアントの発症への効果の程度が未解明であるなどの理由、一方でゲノムからの推定値の方が低ければ、病的バリアントは他にも存在する、などの理由を考察している。
今後、さらに研究を進めるにあたって、特に、1)研究の進展に伴い知見が増えると病的バリアントと判断されるものは増加する、2)個々の病的バリアントが特定の遺伝子型で実際に発病に至る割合については未解明であること、3)頻度が高めのバリアントであっても他の病的バリアントとの共存状態で発病に貢献することがあり集団中の患者の割合に影響し得る、などに注意を払う必要があると、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース