モータータンパク質とDNAオリガミの組み合わせで
北海道大学は5月7日、モータータンパク質とDNAからなるオリガミを組み合わせることで、化学エネルギーを力学エネルギーに直接変換する分子人工筋肉の開発に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究院の角五彰准教授、関西大学化学生命工学部の葛谷明紀教授、東京工業大学情報理工学院情報工学系の小長谷明彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Nano Letters」に掲載されている。
画像はリリースより
これまで有機材料を用いたソフトアクチュエーター(人工筋肉)が数多く開発されているが、比出力特性(重量当たり出力)や設計サイズの自由度の低さ、電気エネルギーへの依存などが課題となっている。これらの課題を解決するキーマテリアルとして、再生可能な化学エネルギーを高効率で力学エネルギーに変換する生体由来の分子機械「モータータンパク質」などが、近年特に注目されている。しかし、ナノメートルサイズの分子機械を巨視的(マクロ)な構造にまで組み上げることは大変難しく、高いスケーラビリティやデザイン性、造型性を有する合理的な設計法の確立が望まれていた。
研究グループはこれまでに、ロボットの3要素であるアクチュエーター、センサー、プロセッサーを、それぞれモータータンパク質とDNAを化学的な手法で組み合わせることで、外部からの信号に応答して自発的に群れをつくる世界初の「分子群ロボット」を開発してきた。
医療用マイクロロボットや昆虫型ドローンなどへの動力源としても期待
今回、研究グループは、この分子群ロボットと同じ素材を用い、分子パーツから組み上げることで数千倍までスケールアップし、実際に駆動可能であることを実証した。
まず、DNA二重らせんを6本チューブ状に束ねた「DNAオリガミ構造体」と呼ばれるナノ構造体を設計し、側面から39本のDNA鎖が生えた構造体を作製。さらに、化学的な手法を用いて、相補的なDNA鎖を修飾した微小管を作製した。このDNAオリガミ構造体とDNA修飾微小管を混合させると、微小管が放射状に集合化した「アスター構造」と呼ばれる集合体が形成されることがわかったという。これにストレプトアビジンタンパクで四量化したキネシンを加えると、アスター構造がさらに集合化し、ミリメートルサイズの網目構造が形成された。最後に、化学エネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を加えると、元の大きさの1/40にまでなる急激な収縮運動が観察された。DNAオリガミ構造体を加えない系でも同様の収縮が起こるが、速度を比べると、DNAオリガミ構造体を加えた系の方が、およそ18倍速いことがわかった。この結果から、DNAオリガミ構造体を介して、微小管の高次の階層構造が形成されていることが示唆された。今回の研究で得られた収縮系は、ヒトの身体で心臓や内臓などを動かしている平滑筋という細胞を模倣した「分子人工筋肉」と言える。
今回開発した分子人工筋肉は、電気を使わず、磁場にも影響されず、生体適合性の高い安心安全な医療用マイクロロボットのアクチュエーターとしての応用がNEDOプロジェクトで進められている。また、高い比出力特性・スケーラビリティを活かした昆虫型ドローンなどの動力源としても期待されており、新学術領域、発動分子科学分野で研究開発中。
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