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LC-SCRUM-Japanで構築のがん臨床ゲノムデータを活用し、スーパーコンピュータ「京」で薬剤有効性を予測-慶大ら

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2019年05月09日 PM01:00

稀な遺伝子変異に対して投薬効果を予測

慶應義塾大学は5月7日、LC-SCRUM-Japanで構築した日本最大のがん臨床ゲノムデータを活用し、「京」を用いた予測システムにより、肺がんの遺伝子変異に対する薬剤有効性が高精度に予測可能なことを確認したと発表した。


画像はリリースより

この研究は、同大医学部内科学(呼吸器)教室の安田浩之専任講師、肺がん病態制御寄附講座の浜本純子特任助教、腫瘍センターの池村辰之介助教、臨床研究推進センターの副島研造教授と、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の鎌田真由美准教授、荒木望嗣特定准教授、奥野恭史教授、国立がん研究センター先端医療開発センターの土原一哉トランスレーショナルインフォマティクス分野長、小林進ゲノムトランスレーショナルリサーチ分野長、同東病院の後藤功一呼吸器内科長、松本慎吾医長、同研究所の河野隆志ゲノム生物学研究分野長らのグループによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー発行誌である「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」(オンライン版)に掲載されている。

がんゲノム医療の普及により膨大な種類の遺伝子変異が同定されている。その中には、治療薬(分子標的薬)の効果が明らかでないものも多く存在している。このような「治療効果が明らかでない遺伝子変異」に対しては、有効な治療薬を選ぶ方法がなく、がんゲノム医療を確立する上で大きな課題となっていた。

高精度の予測に成功、培養実験の代替手段に

今回、研究グループは、国内最大の肺がん遺伝子スクリーニングネットワークLC-SCRUMJapanと協力し、日本最大のがん臨床ゲノムデータベースに登録された 2,164 人の肺がん患者におけるEGFR遺伝子の稀な変異の分布を明らかにした。

次に、それぞれの遺伝子変異に対して、どのような治療薬の効果が高いのかを細胞実験で調べ、薬剤に対する効果が変異によって大きく異なることを明らかにした。さらに、このような遺伝子変異ごとの多様な感受性を、細胞実験など行うことなく予測できないかと考え、スーパーコンピュータ「京」を用いた分子動力学シミュレーションにより薬剤の有効性を予測した。結果、予測された薬剤有効性は実験データと一致しており、この予測システムが、個々の遺伝子変異に対して適した薬剤を高精度に予測可能であることが確認された。

超高速・高性能な計算機を用いたこのシステムを実用化することで、より多くの肺がん患者に迅速に、有効性が高い治療薬を選ぶことが可能になると期待されている。また、他の多くの遺伝子にも適応を拡大することで、がんゲノム医療の進歩に大きく貢献することが予想されると研究グループは述べている。

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