チーズ等の発酵乳製品の摂取が、認知機能低下を改善・予防
慶應義塾大学は4月25日、乳由来の認知機能改善ペプチドであるβラクトリンが健常中高年を対象としたランダム化比較試験で記憶力を改善することを確認したと発表した。この研究は、同大文学部心理学研究室の梅田聡教授と、キリンホールディングス株式会社R&D本部健康技術研究所の研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Frontiers in Neuroscience」に掲載されている。
画像はリリースより
これまでの疫学調査で、チーズ等の発酵乳製品の摂取が認知機能低下を改善し、また予防することが示されている。近年、キリンホールディングスの研究グループは東京大学との共同研究で、白カビで発酵させたカマンベールチーズの摂取が、アルツハイマー病を予防する効果を示すこと(Ano Y. et al., PLoS One 2015)、その有効成分として、認知機能改善ペプチドであるβラクトリンを新たに発見し、老化に伴う認知機能低下を改善することを、非臨床試験で報告している(Ano Y. et al., Neurobiol. Aging 2018)。
βラクトリンは、βラクトグロブリン由来のテトラペプチド(GTWY)で、海馬や前頭皮質のドーパミン等のモノアミン量を増加させることで空間作動記憶やエピソード記憶などを改善することが非臨床試験で確認されている。しかし、これまでβラクトリンのヒトの認知機能へ及ぼす作用は、検証されていなかった。
プラセボ摂取群と比較し、記憶機能を有意に改善
研究グループは、βラクトリンが高含有な乳由来の食品素材を独自に開発。健常な中高年114名を無作為に、βラクトリンが高含有なサプリメントを摂取する群(βラクトリン摂取群)およびプラセボ摂取群に無作為に割り付け、12週間摂取させる2重盲検試験を行った。摂取12週目において、ウェクスラー成人知能検査を用いて記憶機能を評価した結果、手がかり再生記憶を評価する視覚性対連合試験の結果が、βラクトリン摂取群でプラセボ摂取群と比較して有意に改善。その他、標準言語性対連合学習検査等の記憶検査でも、βラクトリン摂取群はプラセボ摂取群よりも高い改善作用を示した。これらは前頭葉が関わる機能とされており、非臨床試験の結果も踏まえると、βラクトリンの記憶力改善(特に想起機能)には、前頭葉の背外側前頭前野の関与が示唆される。
今回の研究成果により、βラクトリンが高含有な食品素材の摂取が、認知機能の中でも、特に記憶力を改善することが確認された。この成果は、疫学調査に基づいた研究より見出された認知機能改善ペプチドであるβラクトリンの、ヒトでの効果を確認した初めての報告となる。βラクトリンが高含有な食品素材は、ホエイプロテインを特定の酵素で分解することで調製される食経験が豊富な素材であり、安全な食品素材として日常生活で継続的に摂取することが可能だ。同食品素材を活用した飲食品が開発されれば、高齢化で大きな社会課題となっている認知症予防や、認知機能改善への食を通じた貢献が可能になると考えられる。
研究グループは、「今後は、βラクトリンが活性化する脳の領域について、ヒトを対象とした試験で明らかとすることで、さらなる作用機序の解明が期待される」と、述べている。
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