胆道がんの新規治療薬候補を探索
慶應義塾大学は4月24日、白癬菌(水虫)の治療薬であるアモロルフィンおよびフェンチコナゾールが、胆道がんの新たな治療薬となる可能性を見出したと発表した。この研究は、同大薬学部薬物治療学講座の齋藤義正准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Cell Reports」電子版に4月23日付で掲載された。
画像はリリースより
胆道がんは難治性がんの代表であるが、現在は胆道がんに対する有効なバイオマーカーが存在しない。そのため、早期発見が難しく、外科的切除による治療が困難な症例に対しては、抗腫瘍薬による化学療法が行われている。胆道がんに対する化学療法には、ゲムシタビン(「ジェムザール(R)」)やプラチナ製剤であるシスプラチンを含むレジメンが標準治療となっているが、その成績は十分ではなく、化学療法による根治はほとんど望めないのが現状。また、これらの抗腫瘍薬は骨髄抑制、消化管障害、脱毛、腎機能障害、肝機能障害などの細胞毒性が強く、重篤な副作用が患者のQOLを著しく低下させている。
オルガノイドを使い予後予測バイオマーカーを発見
研究グループは、新たな胆道がん治療薬を見つけるためにまず、肝内胆管がん、胆嚢がんおよびファーター乳頭部に発生した神経内分泌がんの患者より提供されたがん組織を用いてオルガノイドを樹立し、1年以上にわたり安定的に培養・維持することに成功した。これらの患者由来の胆道がんオルガノイドは、生体内の腫瘍と組織学的にも機能的にも極めて高い類似性を示した。そこで、これらの胆道がんオルガノイドを用いて、遺伝子変異解析および遺伝子発現解析を実施し、非がん組織由来のオルガノイドに比べて特に発現が上昇している遺伝子や低下している遺伝子を特定した。また、分子標的治療薬のエルロチニブを投与した場合に、増殖が抑制される胆道がんオルガノイド(感受性あり)と、増殖が抑制されない胆道がんオルガノイド(感受性なし)が存在することが明らかとなり、胆道がんオルガノイドにおいてエルロチニブに対する感受性あり、なしで発現が大きく異なる遺伝子についても特定した。
さらに、The Cancer Genome Atlasに公開されている臨床データベースを用いて、これらの遺伝子発現と胆道がん患者の予後(生存期間)を解析したところ、SOX2、KLK6、CPB2遺伝子の発現と患者予後が統計学的に有意に相関しており、この3つの遺伝子が高発現している患者の予後が特に不良であることが判明。つまり、SOX2、KLK6、CPB2遺伝子の発現は、胆道がん患者の予後を予測する新たなバイオマーカーとして期待できる。
2種の抗真菌薬が胆道がん細胞の増殖を抑制
最後に研究グループは、樹立した胆道がんオルガノイドを用いて、東京大学創薬機構から提供された既存薬ライブラリーを用いて薬物スクリーニングを実施。予想通り、ヒット化合物のほとんどがゲムシタビンをはじめとする抗腫瘍薬だったが、これまでに抗腫瘍作用が報告されていないアモロルフィンとフェンチコナゾールもヒットした。そこで、樹立した複数の胆道がんオルガノイドを用いて検証したところ、両剤ともに胆道がんオルガノイドの増殖を抑制することが明らかとなった。特にアモロルフィンはゲムシタビンと同等の増殖抑制効果を示し、正常胆管細胞に対してはほとんど毒性を示さなかったという。
両剤は、白癬菌(水虫)等の真菌感染症に対する治療薬として市販されており、既に安全性が確認されている。ドラッグリポジショニングにより、本来は抗真菌薬である両剤が、胆道がんを最小限の副作用で効率的に抑制する新規予防・治療薬の候補になることが期待される。今後、臨床試験の実施を目指し、さらに基礎的な研究を継続する予定と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース