CSとSCDOはTBX6遺伝子のミスセンス変異と関連があるのか
理化学研究所は4月23日、先天性側弯症(Congenital scoliosis: CS)と、脊椎肋骨異形成症(Spondylo-costal dysostosis: SCDO)におけるTBX6遺伝子の機能喪失の主な機序を同定し、この2つの疾患が一連の疾患群を形成していることを明らかにしたと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、大伴直央大学院生リサーチ・アソシエイト(慶應義塾大学医学部医学科博士課程)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Genetics」のオンライン版に同日付で掲載された。
画像はリリースより
CSは、脊椎の椎体の形成異常に起因する脊柱側弯症。非常に頻度の高い疾患で、全世界で500~1,000人に1人の頻度で発生する。一方、SCDOは極めて稀な骨系統疾患で、肋骨や脊柱にCSよりもはるかに重篤な形成異常を引き起こす。いずれも厚生労働省の難治性疾患に登録されているが、これら疾患の原因および病態の多くはよくわかっていない。
以前、中国の研究で、中国人のCSの約10%が、脊椎の発生に関与する転写因子TBX6の遺伝子のリスクハプロタイプと、機能喪失を引き起こす遺伝子変異のヘテロ接合性によって起こることが発見された。またこれとは別に、SCDOでもTBX6遺伝子の関与が報告されている。これらから、これまで全く異なった疾患とされていた両疾患が、一連の疾患群を形成している可能性が示唆されている。また、CSとSCDOで、病因性が不明なTBX6遺伝子変異のミスセンス変異がいくつか報告されている。
そこで今回研究グループは、200人の日本人患者で、TBX6遺伝子の変異を検索し、日本人での発生頻度、変異のレパートリーを確認するとともに、機能解析によるTBX6遺伝子のミスセンス変異の病因性の解析、変異と表現型の重症度との関連の検討を行った。
TBX6タンパク質の細胞内局在異常がCSとSCDOの主な病因
研究グループは、CS 196例、SCDO 4例の日本人患者において、TBX6遺伝子の変異の検索を行った。まず、コピーナンバーアッセイを用いて、TBX6を含む16番染色体の16p11.2の欠失例を5例、同定した。次に、サンガー法とエクソームシークエンスで塩基レベルの遺伝子変異を検索し、スプライスサイト変異を1つ、ミスセンス変異を5つ同定した。いずれも新規、もしくは非常に稀な既報の変異だった。先の中国の研究で提唱されたTBX6遺伝子関連CSの発症モデルでは、変異アレルの反対アレルは、TBX6遺伝子の発現低下を引き起こすリスクハプロタイプを持っているとされていたが、このモデルは、今回変異を発見した全ての例で当てはまった。さらに、欠失例、スプライスサイト変異だけでなく、ミスセンス変異例も全て、反対アレルにリスクハプロタイプを持っていた。また、日本人におけるTBX6遺伝子関連CSの発生率も、全CSの約10%で、中国人での報告と同程度だった。
そこで、TBX6遺伝子のミスセンス変異が実際に転写因子TBX6の機能喪失を起こすのかを確認した。新規および既報のミスセンス変異、計12変異の機能を解析したところ、転写活性を低下させる変異を3つ、タンパク質の細胞内局在異常を起こす変異を8つ同定した。これにより、CSには、TBX6遺伝子におけるミスセンス変異の機能喪失機序として、従来示されていた転写活性の低下だけでなく、TBX6タンパク質の細胞内局在異常(核外への移行)が存在し、かつそれが主な病因であることがわかった。
変異の重症度に比例した一連の疾患群と判明
次に、両アレルにTBX6遺伝子のミスセンス変異を持つSCDO患者由来のiPS細胞をTBX6遺伝子が最も強く発現する体節形成期まで誘導し、変異によるタンパク質の細胞内局在異常を患者の細胞で確認した。その結果、誘導細胞でも、TBX6タンパク質の核への移行障害を確認できた。さらに、体節形成期のTBX6遺伝子、およびその下流の遺伝子の発現が低下していることもわかった。
最後に、臨床症状と遺伝型の関係を検討したところ、両アレルに機能喪失変異を持つ症例では、片アレルが常に機能低下が弱いリスクハプロタイプであるCSに比べ、より重度のSCDOの表現型を示していた。これにより、TBX6遺伝子変異の重症度に応じて表現型も重度になることが推測された。以上より、CSとSCDOは異なる疾患ではなく、変異の重症度に比例した一連の疾患群であることが明らかになった。今後、患者の誘導iPS細胞で、病態を観察、研究していくことで、CS、SCDOの理解、病態解明がより進展することが期待できると、研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース