一部の患者で効かなくなるタモキシフェンの仕組みを明らかに
慶應義塾大学は4月18日、乳がんの増殖や乳がん治療薬の効果の鍵となるタンパク質を発見したと発表した。この研究は、同大先端生命科学研究所の齊藤康弘特任講師、曽我朋義教授らのグループによるもの。研究成果は日本時間で同日、「Nature」のオンライン速報版に掲載された。
画像はリリースより
乳がんはエストロジェン受容体(ER)、プロジェステロン受容体(PR)、そして、HER2といった遺伝子の発現パターンによって、1)ER/PR陽性の乳がん、2)HER2陽性の乳がん、3)ER/PR/HER2のどれも陰性を示す乳がんの3つに大きく分類される。ER/PR陽性の乳がんは全体の70%以上を占めており、治療の過程においてエストロジェンの働きを抑えるホルモン療法が行われる。中でもエストロジェン受容体を標的とした薬剤、タモキシフェンは非常に有効だが、一部の患者ではタモキシフェンが効かなくなることが問題となっているため、乳がん細胞の増殖の仕組みだけではなく、乳がん細胞でタモキシフェンが効かなくなる仕組みを明らかにすることが強く望まれている。
LLGL2+SLC7A5でロイシンの細胞内取り込み増加、細胞増殖亢進
研究グループは、ER陽性乳がん細胞において異常に多いLLGL2というタンパク質に着目し研究を行った。ER/PR陽性の乳がん患者ではLLGL2の高発現が患者の生存率を下げること、そして、LLGL2は栄養ストレス下にあるER陽性乳がん細胞の増殖を促進することがわかった。がん細胞は生体内で、栄養ストレス状態でも増殖することから、LLGL2は栄養ストレス下での乳がん細胞増殖の鍵になると研究グループは考えた。そこで、メタボローム解析を行ったところ、LLGL2は細胞内のアミノ酸量を制御していることがわかった。さらに詳しく調べたところ、LLGL2は、ロイシンの細胞内への取り込みを制御し、細胞増殖を亢進することが明らかになった。
さらに研究グループは、アミノ酸トランスポーター「SLC7A5」がLLGL2と結合し、細胞表面のSLC7A5を増加させることを発見。アミノ酸トランスポーターであるSLC7A5は、細胞外のロイシンを細胞内へ取り込む働きがある。
LLGL2とSLC7A5が、タモキシフェンが効かなくなる原因の1つと判明
一方、ER陽性乳がん細胞では活性化したERによって標的遺伝子の転写が亢進される結果、異常な細胞増殖が誘導される。研究グループは、この異常増殖と、LLGL2の関連を調べた。結果、LLGL2がERによって制御される遺伝子であり、さらにLLGL2はER活性化による細胞増殖に必要なタンパク質であることが明らかとなった。
最後に、SLC7A5高発現細胞におけるタモキシフェンの効果などを解析した結果、LLGL2とSLC7A5が乳がん細胞で機能することはタモキシフェンが効かなくなる原因のひとつであることも見出した。
以上の結果から、ER陽性乳がん細胞では活性化したERがLLGL2を増加させ、増加したLLGL2はSLC7A5と結合し、SLC7A5を細胞表面へ運び、細胞内のロイシンが増加、増加したロイシンは細胞増殖を亢進するという一連の仕組みが明らかとなった。さらに、LLGL2およびSLC7A5が乳がん細胞内に多く存在すると、タモキシフェンが効かなくなる原因のひとつとなることが示された。今後はER陽性乳がん細胞内のロイシンの働きを明らかにすることによって、新たな治療薬や治療法の開発が発展することが期待されると研究グループは述べている。
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