遺伝子多型でEPPを発症する症例がある
富山大学は4月12日、幼小児期から光線過敏を起こす遺伝性疾患である骨髄性プロトポルフィリン症(Erythropoietic protoporphyria:EPP)の日本人患者の特徴を解析し、日本人に特有な不完全骨髄性プロトポルフィリン症(incomplete EPP)を見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学薬学研究部(医学)皮膚科学講座の三澤恵講師、清水忠道教授らが弘前大学と共同で行ったもの。研究成果は「Acta Dermato-Venereologica」に掲載されている。
EPPは小児期以降に発症する光線過敏を呈する疾患で、原因遺伝子は、フェロケラターゼ(FECH)をコードするFECH遺伝子。ヘムを合成する代謝経路の最終段階において、FECHの活性が低下することによりプロトポルフィリンIX(PPIX)が骨髄造血系や皮膚などに蓄積するために生じる。EPPでは幼少時期から日光曝露後に発赤、疼痛などの光線過敏症状を生じ、時に肝機能障害を起こす。血液検査では蛍光赤血球が出現し、血中プロトポルフィリン(PP)値の高値を呈する。EPPはFECH遺伝子変異単独では発症せず、イントロン3に遺伝子多型IVS3-48T/C(野生型はIVS3-48T/T)を同時に持つことで酵素活性が低下しEPPが発症することが明らかにされている。
EPP患者の遺伝子解析では、およそ90%程度で遺伝子変異が同定される一方で、軽度のEPPの症状を呈するもののFECH遺伝子変異は検出されない症例も存在する。EPP患者のFECH酵素活性は健常人の酵素活性の約8~45%に低下することが報告されている。さらに、IVS3-48C/Cの遺伝子多型をもつ人のFECH酵素活性はIVS3-48T/Tをもつ人の酵素活性の約38%と報告されている。
画像はリリースより
日本人の遺伝子多型IVS3-48C/Cで発症する「incomplete EPP」
研究グループは今回、軽度のEPPの所見(軽度の光線過敏症状、少数の蛍光赤血球、血中PP値の軽度上昇)がある3症例を検討した。すると、この3例からFECH遺伝子の異常は検出されず、遺伝子多型IVS3-48C/Cが同定された。ここから、FECH遺伝子における遺伝子多型IVS3-48C/CによりFECH活性の減少が引き起こされ、不完全なEPP(incomplete EPP)を発症することが推察された。
そこでさらに、incomplete EPP患者の臨床症状と血中PP値の推移を追ったところ、3症例とも臨床症状は徐々に軽快した。血中PP値の軽度高値は持続したものの、うち1例は正常上限近くまで低下がみられたという。このことから、incomplete EPPは成長とともに改善がみられる可能性があると考察された。
遺伝子多型IVS3-48C/Cの頻度は人種差があり、日本人では欧米諸国の約10倍多いと考えられている。これまで診断がつかずに見逃されていた幼児、小児における軽症の光線過敏症が潜在的に存在している可能性も考えられるため、今回の研究成果はこれらの患児の光線過敏症の診断、治療につながることが期待されると研究グループは述べている。
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