生物発光ドナーを用いた共鳴エネルギー移動を活用
東京医科歯科大学は4月12日、生物発光ドナー(NanoLuc)を用いた共鳴エネルギー移動(BRET)を活用して、ケモカイン受容体「CXCR4」のリガンドの高感度スクリーニング法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学生体材料工学研究所メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授らによるもの。研究成果は、米国化学会誌「Bioconjugate Chemistry」オンライン版に4月11日付で公開された。
画像はリリースより
ケモカイン受容体の一種であるCXCR4は、7回膜貫通Gタンパク質共役型受容体(GPCR)で、多くのがん細胞において過剰に発現している。また、HIV感染の受容体のひとつでもあり、関節リウマチ患者のメモリーT細胞表面に過剰発現されることもある。このことから、抗がん薬、白血病治療薬、抗エイズ薬、抗リウマチ薬等の開発においてCXCR4は重要な標的分子として考えられており、実際に、いくつかのCXCR4アンタゴニストが世界中で臨床試験に進んでいる。
一方で、このようなリガンドの開発を効率的に推進するためには、受容体に対する結合親和性を簡便に測定する高感度なアッセイ法を確立することが重要となる。これまでにCXCR4リガンドのスクリーニング法には、放射性同位元素ラベル化プローブや蛍光プローブを用いる競合阻害法があったものの、その安全性や感度に問題があり、汎用性には限界があるのが現実。このような欠点を克服する新たなスクリーニング法の開発が世界レベルで待ち望まれていた。
がん、白血病、エイズ、リウマチ等の治療薬開発への応用に期待
今回研究グループは、CXCR4リガンドのハイスループットスクリーニングツールに有用なNanoBRETアッセイ法を開発。この系では、培養細胞(CHO細胞)に安定発現させた、NanoLuc-CXCR4(CXCR4のN末端にNanoLucを付与した分子)から460nm付近の生物発光エネルギーが生じる。そこに、蛍光ラベル化したCXCR4アンタゴニスト「TAMRA-Ac-TZ14011」を添加すると、TAMRA-Ac-TZ14011はCXCR4に結合。NanoLucと距離的に近いので、生物発光エネルギーのアクセプターとしてとして機能し、620nm付近の蛍光を発する。ここに、テスト化合物が存在し、TAMRA-Ac-TZ14011と競合的にCXCR4に結合すると、TAMRA-Ac-TZ14011が遊離し、蛍光が生じなくなり発光だけが検出できる。すなわち、620nmでの蛍光と460nmでの発光の比が、テスト化合物のCXCR4との相互作用の強度に反映される。
その結果、NanoBRETアッセイ法は、TAMRA-Ac-TZ14011をアクセプターとし、生細胞上のCXCR4に付与したNanoLucを生物発光ドナーとして、CXCR4リガンドの評価に適応可能であると示すことができる。実際、いくつかの既知CXCR4リガンドのIC50値は、別法で得られた値と一致し、本法の精度も確認された。また、NanoLuc-CXCR4に分泌シグナルを導入する改変により本レセプターの発現と細胞膜への輸送が向上し、NanoBRETアッセイ法のダイナミックレンジも増大した。以上より、CXCR4リガンドのマルチウェルプレートスクリーニングに簡便で有用な、生細胞でのNanoBRETアッセイ法の開発に成功したという。
このアッセイ法により、がん、白血病、HIV感染症、関節リウマチ等に関与するCXCR4を標的としたリガンドの探索研究に応用できることが明らかとなった。今回の研究成果は、精度が高く、簡便で安全なリガンドスクリーニングに貢献し、CXCR4をブロックする抗がん薬、白血病治療薬、抗エイズ薬、抗リウマチ薬等の開発研究の効率化が期待できると研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース