原因遺伝子であるRIT1の変異マウスを作製
東北大学は4月9日、国の指定難病となっているヌーナン症候群の原因遺伝子RIT1の変異マウス作製に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科遺伝医療学分野の井上晋一助教、高原真吾医師、青木洋子教授、同心臓血管外科学分野の齋木佳克教授らの研究グループによるもの。研究成果は「EBioMedicine」に掲載されている。
画像はリリースより
ヌーナン症候群は、先天性心疾患、低身長、骨格異常、血液凝固異常、リンパ管形成異常、停留精巣などを特徴とする遺伝性疾患。日本での報告では1万人に1人とされており、現時点では根本的な治療法がないことから国の指定難病に指定されている。
研究グループはヌーナン症候群と臨床症状が似ているコステロ症候群(CFC)症候群の原因遺伝子として2005年にHRASを、2006年にはKRASとBRAFを世界に先駆けて同定した。さらに2013年には、ヌーナン症候群の原因遺伝子の1つとしてRIT1を世界で初めて同定。これらの症候群の原因遺伝子は、がんに関係する遺伝子(がん原遺伝子)を含み、細胞の増殖、分化の制御に関わるRAS/MAPKシグナル伝達経路に関係していることから、国際的に「RASopathies(ラソパシー)」と呼ばれるようになった。
東北大学ではこれまでRASopathies患者の遺伝子診断を行うとともに、新規遺伝子を明らかにしてきたが、がん原遺伝子の変化によってどのような仕組みで症状が現れるのか、また、どのような治療が有効であるのかは、明らかにされていなかった。
ペリオスチン、ビメンチン発現亢進を伴う著明な心臓の線維化示す
今回研究グループは、RIT1遺伝子にA57G変異(57番目のアミノ酸がアラニンからグリシンに変化)をもつ遺伝子改変マウス(RIT1変異マウス)を世界で初めて作製。その結果、RIT1変異マウスは成長障害(体重増加不良、低体長)、骨格異常、脾腫、胎児期の浮腫、線維化を伴う心肥大など、ヌーナン症候群に類似した症状を示した。さらに、RIT1変異マウスの心臓を詳細に解析したところ、線維芽細胞のマーカータンパク質であるS100A4や、筋線維芽細胞のマーカータンパク質であるペリオスチン、ビメンチンの発現上昇が見られ、線維芽細胞および筋線維芽細胞の増殖が亢進していることを見出した。そこで、心臓の線維化を誘導するβアドレナリン受容体作動薬(イソプロテレノール)を投与したところ、RIT1変異マウスではペリオスチン、ビメンチン発現亢進を伴う著明な心臓の線維化を示すことが明らかになった。また、その時の心臓組織においてシグナル伝達タンパク質であるAKTの活性化を認めた。
研究グループは、「今後、RIT1変異マウスを利用したヌーナン症候群の病態解明、治療法開発が進められていくことが期待される」と、述べている。
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