HBVの標的肝細胞侵入経路は不明だった
日本医療研究開発機構(AMED)は4月2日、B型肝炎ウイルス(HBV)が細胞へ感染する仕組みを新たに解明したと発表した。この研究は、九州大学大学院理学研究院の岩本将士特任助教、岩見真吾准教授、国立感染症研究所の渡士幸一主任研究官らの国際共同研究グループ(日本とフランスの共同研究)によるもの。研究成果は米国科学アカデミー紀要「PNAS」に掲載されている。
画像はリリースより
HBVの持続感染者は世界でおよそ2億6千万人にのぼると推計されている。また、HBV感染を原因とした肝硬変・肝がんなどの発症は毎年80万人以上の死亡要因(2017年WHO統計)となり、公衆衛生上対策が急務の感染症だ。そのため、HBVを治療・予防する抗ウイルス薬の開発が強く求められているが、そのためにはHBVがどのように宿主に感染し増殖するのかを理解することが重要である。
HBVは肝細胞表面に存在するナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP)に結合することで標的肝細胞に吸着することは既に分かっていた。一方で、その後どのように細胞内へ侵入するかはこれまで明らかではなかった。
NTCP-EGFR複合体がHBVの細胞内侵入を媒介
研究グループの報告によると、NTCPと相互作用すると知られているEGFRを欠損させた細胞では、NTCPと結合したHBVが細胞内へ侵入することができず、細胞表面に留まり続けた。また、EGFRと結合しないNTCP変異体はHBVと吸着はできるが、細胞内への侵入は誘導できなかった。EGFRとNTCPの結合をペプチドで阻害した場合、また、EGFRの機能を阻害する化合物の存在下ではHBVが細胞内へ侵入できず、HBV感染が阻害されることを示した。これらのことから、HBVはこのNTCP-EGFR複合体と共に、細胞表面から細胞内へと侵入することが明らかとなった。
今回の研究成果から、NTCPのウイルス受容体機能にはEGFRが必須であり、EGFRがHBVの細胞内侵入を媒介する受容体共役因子であることが初めて明らかになった。EGFRは細胞の生存に必須であり、多様な生理機能を有していることから、これまで最も研究されてきた膜タンパク質の1つ。EGFRを標的とした薬は抗がん剤としてすでに開発されているが、その1つであるゲフィチニブがHBV感染を阻害することも示した。
研究グループは「今回の研究成果を利用し、新たな抗ウイルス薬の開発が可能になると考えられるので、今後この成果から日本独自の創薬研究を発展させていきたい」と、述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース